雷鳴る中、妖人科の教室では。
2013.06.18.Tuesday
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「じゃあ次の文章を、又吉ー…は、いないのか…」
教科書から顔を上げながら、白沢はその名を呼んだ生徒の姿を確認した。
授業放棄する癖のある生徒は既に把握しているらしく、白沢は「あいつまたサボりか…」と一人愚痴りながら、出席簿にチェックをする。
そうして変わりに誰に当てようか、とまた生徒の方へ視線を向けた時だった。
激しい雷鳴とガラスの割れる音が、教室中に響き渡った。
「…ん?何だ今の音…」
その音に、今まで机に突っ伏して眠りこけていた壱鬼がむくりと起きる。
しかし生徒がざわつき始めたのを見てただ事ではないと感じたのか、寝ぼけていた頭が一気に覚醒した様子だった。
狐乃衛は何か嫌な予感を察知したらしく、普段の飄々とした雰囲気とは一転して、今は考え事をする様な険しい表情を浮かべていた。
彼は普段からよくつるんでいる竜彦の方へ、ちらりと視線を向けた。
どうやら竜彦も同様に予感めいたものを感じているらしく、狐乃衛と眼が合うと微かに頷いた。
そうして生徒が不安の色を見せる中、担任である白沢が放った言葉は―
「…じゃ次の文章、狐乃衛読め」
「「「授業続行かよ!?!?」」」
この瞬間、生徒全員の気持ちと声が一致団結した。
クラスで一番目立つ存在である壱鬼が、誰よりも先陣切って白沢に食ってかかる。
「白沢、今の音聞いたろ!?ぜってーただ事じゃねーって!」
「…妖人の中には雷獣とか雷神というのもいてだな。きっとそんな連中が暴れてんだろ、大丈夫だ問題ない」
「いやありまくりだろ!!どっかでガラス割れる音もしたし!」
そう言っている内に、また雷鳴とどこかの教室のガラスの割れる音がしてきた。
今度は竜彦が壱鬼の後に続く。
「先生、今は一旦何処かへ非難した方が良くないですか?ここの教室のガラスが割れる可能性も無くはないでしょうし…」
「俺ら妖人は頑丈だ、ガラス刺さったとしても唾つけときゃ明日には治るだろ」
「うっわ超適当!!教師がそんなんでいいのかよ!?」
白沢の適当な発言に、狐乃衛が思わず反論の声を上げる。
しかし白沢もここ最近の暑さと生徒達(主に壱鬼関連)の積み重なる問題等々で限界がきていたのか、とうとうやけになった様子で本音を暴露する。
「うっせぇ!俺はおめーらの普段起こす問題で色々と疲れてんだよ!これ以上他の問題事に首突っ込んでたまるか!ついでに言うとだな、おめーらが授業スカす度に捜索すっから授業が遅れてんだよ!夏休みに入ってまでおめーらの面倒なんか見てたまるか!」
「つーかどの道補修あっから、俺は夏休み学校に来るけどな」
「いーじゃんセンセ、夏休みも俺らと仲良くしよーぜ!」
「だが断るッ!!!!」
壱鬼、狐乃衛の続いた発言に、白沢はバッサリと言い放つ。
どうやら本当に面倒事に巻き込まれるのは御免らしい。
ふうっと一息吐くと、白沢は落ち着きを取り戻した様子で、今度は冷静に話す。
「…とにかく。他の科がどう動こうが、俺のクラスは授業続行する」
「えーっ!?」
「マジかよ白沢ー!!」
「ありえねー!!」
「うるせぇ文句ある奴は単位落とすぞゴラァ!」
「職権乱用キター!」
「先生サイテー!」
「独男ー!!」
「ちょ、今独男つった奴前出ろ!窓から雷目掛けて吹っ飛ばしてやろうか!!」
教師に対するブーイングが止まぬ中、竜彦だけが「やれやれ」といった様子でこめかみを押さえていた。
そうしてこの騒ぎに関しない生徒が他にも一人。
窓際に座るオールバックの生徒、天信だった。
彼はぼんやりとした様子で、雷が鳴る青空を眺めている。
(優宇のヤツ…大丈夫かな…)
密かに好意を寄せる子に、一人思い馳せていた。
*END*
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