天信の出会い話

2013.06.18.Tuesday



* * * * * *


その日、俺は学園敷地内にある森の中を散歩していた。
いや、散歩とかそんな穏やかな感じじゃねぇか。
ただむしゃくしゃしていたから、出会った化け物共を適当に相手して、憂さ晴らしをしたかっただけだ。

鬱蒼と葉や草が茂るこの森は、一人で歩けば嫌でも此処に潜む化け物共に出くわす。
正直、学校の敷地にこんな場所があっていいのかよ、と考えた事もあったが、自分の力試しや鬱憤を晴らすにはもってこいの場所である。
おかげで今や、俺がよく足を運ぶ場所の一つとなっていた。



そんな理由で、俺は獲物を狙う獣の様に眼をぎらつかせながら、森の中を歩いていた。
しかし今日は中々、その化け物達に出くわす気配がない。


「…誰か狩り尽くしたか…?」


俺以外にも、この学校には好戦的な奴はわんさかといる。
同じ科の壱鬼らをはじめ、無頼科のSAYTSUI達、召喚従属クラスの狂骨仙太郎など、好き好んで此処を訪れそうな輩は挙げだすときりがない。
それに妖人科の三年からは、実習訓練で敢えて魔物とも戦ったりもする。



それらの思い当たる節があり、今日は諦めて学校に戻るか、と考えていた時だった。

遠くで少女の声と、化け物の奇声が微かに聞こえた。



それが俺の耳に届いた瞬間にはもう、身体は勝手に動いていた。
道から逸れた木々の方へと飛び込み、草根をかき分けながらその声がした方へとただひたすら走る。

森の出口の方に近づいて行った時、それらの音の発生源を見つけた。
一人の少女と、それに近付く化け物の姿。

そこにいた化け物は、何度か出会ったことのある奴だった。
確かミセス・ドレイクとかいうやつだったか…?花粉で人を操るとか何とか。

まあ名前や特性はさておき、そいつは丁度その花粉を吐き出そうとしている所だった。
身を屈め、口を大きく開けて今にも攻撃をけしかけそうな体勢である。

だが、その姿勢は不意打ちにはもってこいだ―



「おらぁッ!!」


その隙だらけのミセス・ドレイクの横ッ面に、思いっ切り蹴りを入れた。
勢い付いたその一撃に、奴は茂みの方へと吹っ飛ぶ。

ようやく見つけた獲物に、俺は高揚しながら応戦の構えをとった。
その打撃だけでは倒れないのか、そいつはまた起き上がって、今度は俺を標的にして襲いかかってくる。

身体の形を形成している、蔦の様な根の脚部からの攻撃を、俺に目掛けて放ってきた。


「っと…!」


寸前の所で、それらの攻撃をかわす。
ひゅん、と鞭の様な空をきる音が、幾度か間近で聞こえた。

しかしまた次の攻撃がくる前に、俺は反撃に移った。



一気に間合いを詰めて身を低く構えると、そのまま地面に手をつき、敵の顎になる部分を勢いよく蹴りあげた。
人間の急所となる所に打撃を食らえば、いくら人外相手でも相当なダメージだろう。

案の定、ミセス・ドレイクは宙に浮き、そのままどたりと地面に倒れ込んだ。
今度は起き上がってくる気配もなく、ぴくりとも動かなくなってしまった。


「なんだ、もう終わりかよ…」


あっけなく終わってしまって些か物足りなさを感じつつも、そういや誰か襲われかけてたな、と思い出し、何気なく振り返って訊ねる。


「おい、大丈夫…か…」


そこにいた人物を見た瞬間、思わず言葉が途切れかけた。

桃色の髪に、緑の帽子。
大きく丸い瞳は、真っ直ぐに俺を見つめている。



―確か、同じ科の響谷 優宇ってやつだったか。

遠くから姿を見たり、誰かから間接的に名前を聞いた事はあったものの、こうして間近で見るのは初めてだった。



優宇は座り込んでいた姿勢から立ち上がって、スカートの土埃を払うと、にこりと笑って答えた。


「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

「そっ……そう、かよ」


何故だ、いつも以上に思うように言葉が出ない。
ぎこちない返事をすると、目の前にいるそいつは俺をまじまじと見ながら訊ねてきた。


「あの、確か…天信さん、でしたよね?」

「!?な、何で俺の名前…」

「私、やまびこの妖怪なので、他人の声を真似るのが得意なんです。だから、色々な人の名前や性格、話し方とか覚えておこうと思って」


なるほど、そんな理由があったのか。
一瞬淡い期待を抱いた自分が恥ずかしい。

俺がそうして内心納得した様な、少しがっかりした様な気持ちでいると、優宇は微笑んで礼を述べた。


「助けて頂きありがとうございました、天信さん」

「!べっ…別にそんなつもりはねぇよ!ただその、なんだ、単純に俺が戦いたかったっつーか…」


ああ、またひねくれた性格が災いして、こんな言葉しか出てこない。
素直に「怪我してないならいい」とか「気にすんな」の一言で済ませればいいのに。
そうしてまた出る言葉も、俺の本心とは裏腹なものだった。


「っ…また化け物共に襲われねぇ内に、さっさと学校へ戻れ!」

「あ、ちょっ、天信さん!?」


優しく気遣う様な言葉とは程遠い言葉を放つと、俺は逃げる様にその場を離れた。






また森の奥へと向かいながら、落ち着かない感情を宥める様に黙々と歩き続ける。

―あの優宇ってやつ、俺がガキの頃に、初めて好きになったやつに何処か似ていた。
雰囲気か?髪型か?いや、それともあの丸く大きい瞳だろうか?


先ほど出くわした人物に想い馳せながら歩くが、ざわついた心と心音は中々おさまってくれそうにない。

だがしかし、何故だろうか。
長く忘れていたこの感情が、ただ―



懐かしいと感じたんだ



* * * * * *

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