死神、目覚める
2013.06.21.Friday
* * * * * * * *
俺が目を覚ました時に視界に映ったものは、見知らぬ天井だった。
此処は一体、何処なんだろうか。
そう思っていると、意識を手放す前の出来事をふと思い出す。
そういえば俺は、ジェントルと一騎討ちを果たしたんだったっけか。
そして何とか奴を仕留めたものの、その後俺も階段の踊り場で倒れこんで、そのまま意識を失って―
そこまで思い出した時、俺はその時考えていたことまでもを思い出してしまっていた。
(そうだ、リジェクトに会いたいと思っ…)
心でそう呟きながら上体を起こした途端、俺は愕然としてしまった。
というのも、俺が寝ていたベッドの脇にその人物が本を読みながら座っていたからだった。
「………」
リジェクトを見て固まっている俺に、向こうはふと気がついたらしい。
本から顔を上げ、こちらを見て話す。
「ああ、ようやく目覚めたみたいだね」
「………」
俺は返事も出来ずにいたが、とりあえずはぽかんと開いていた口を閉ざした。
リジェクトは手にしていた本をぱたんと閉じると、そのまま椅子から立ち上がりながら言葉を続ける。
「漸く意識も取り戻したみたいだし、それじゃあ僕は行くよ」
「…!!」
待て、それは困る。主に俺が。
その意を込め、俺はくるりと踵を返した彼女の袖を、咄嗟に掴んで引き止めた。
ぐいっと引っ張られた方は、骸骨の覆面をこちらに向けて訪ねる。
「何?」
「………」
しかし何も言葉を考えていなかった俺も俺で、引き止めるワードが出てこない。
何とか足を止めるのに良い手立てはないものかと考えていた時、ふとベッドサイドの机に見舞いと言わんばかりの林檎やら蜜柑やらの果物が置かれてあった。
ご丁寧なことに、包丁と皿もセットである。
それを見た後、再度リジェクトの方に顔を上げた。
俺の先程の視線を辿った彼女は、その卓上のものに気付いた様子で話す。
「…ああ、それ?何か、桜花先生って人が“見舞いです”って置いていったみたいだよ」
「………」
「……まさか、僕に剥いてくれ、と?」
「………」
「………」
「………」
「……ハァ。分かったよ、仕方ないな」
言わんとしていたことが、どうにか無事に伝わったらしい。
リジェクトは渋々といった様子ながらも、包丁と林檎を一つ手に取ると慣れた手付きで剥き始めた。
その間、俺が気を失っている間の事を彼女から色々と聞いた。
階段で倒れていた俺を栃尾医師が運んでくれたこと、そして手当てしてくれたこと。
旧校舎にあった魂の幾つかはもう返す肉体が残っていないこと、ジェントルにそれを一つ譲渡したこと。
「ちなみにジェントルの方は、このカーテンの向こうにいるから」
「…そうか」
しかし俺が彼女を引きとめたのは、そんな話が聞きたいからではない。
気を失う直前に思ったことを、今此処で素直に伝えたかったのだ。
俺は一つ深呼吸をすると、静かに口を開いた。
「…リジェクト」
「何」
「階段で気を失う時、俺は死ぬんだと思った」
「ふーん…で?」
「今まで“死”なんて何とも思っていなかったが…いざ直面したとき、怖くなった。死にたくないと思った」
「まあ、人間なら誰しもそう思う気がするけど」
「そしてそれと同時に…リジェクトに、会いたくなった」
「…は?」
しゃり、と林檎を剥く音が一旦止まる。
一呼吸の間があった後、再びその音が始まった。
「…回廊にいた時、ずっと無関心を装っていた。ただひたすら、無心になるよう努めていた。…けど、本当はずっとお前に憧れていたんだ」
「………」
「あんな環境に屈せずに生きる姿を見ていて、段々と惹かれたんだ。…リジェクト。俺は、リジェクトが好きなんだ」
今まで無口だった反動だろうか、今の俺は何時になく饒舌だった。
そして、想いの言葉もそうしてすんなりと口にできたのだが、彼女からの返事はない。
ただ、手元に視線を落としたまま、黙りこくっていた。
いつの間にか林檎を剥く音も止まっていて、俺達がいる空間には静寂に包まれている。
そんな中、ようやくリジェクトは静かに口を開いた。
「………デス」
「?」
「“林檎を食べ終えるまで、僕と話すことを拒絶する”」
「…え?」
次の瞬間、また唖然と口を開いた俺の口腔内には林檎が突っ込まれていた。
こうして、お喋りが過ぎた俺の口は、彼女が剥いてくれた林檎によって塞がれてしまったのであった。
*END*
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やっぱりギャグオチにしかなりませんでしたorz
自分の意志が芽生え恥ずかしいことも躊躇なくぺらぺらと話すデスを、リジェクトさんによって塞がれたというラスト。デスざまぁ!←
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