狸が狸を発見

2013.06.21.Friday


* * * * * * *



その日、柳森 寿は特に宛てもなく近所を徘徊していた。



一つ博打を打ちたいというわけでもなく、だからと言って昼寝がしたいわけでもない。

只からころと下駄の音を響かせながら、彼は昼下がりの公園をのんびりと歩いていた。



「ん〜…暇、だねぇ」



こんな時に組合の飲み会でもあればいいんだけどなぁ、と彼は空を仰ぎながら思う。

関東狸ノ組合に加入している仲間内で集まり、古年寄りみたいな会話をしながら皆で食べ飲み明かす、というのが彼の人生の楽しみの一つでもあった。





狸一の姐さん、飲み会の席の一つでも設けてくんないかねぇ、と他人任せで能天気な事を考えながら歩いていると、不意に饅頭の微かな香りが寿の鼻を掠めた。



「…ん?この饅頭の匂いは…」



―この酒蒸し饅頭の匂いは、狸一の所でよく食べる饅頭と同じ匂いだ。

でも、何故こんな所でこの香りがするんだ?



寿は足を止め、きょろきょろと周囲を見回す。

のんびりした様子とは一転して、気を張り詰めた様子の彼の瞳は、道の脇に植わっている木々の中で蠢く一つの陰を捉えた。

寿は相手に気付かれないよう、そっとその人物の背後に回って近付いた。





その人物は傍らに饅頭が入ってると思わしき袋と、酒を置いてせっせと何かをほお張っているらしかった。

そんな相手の後ろ姿は、短めの焦げ茶色の髪から、ひょっこりと生えた狸の耳。

おまけに狸の尻尾まで生えている。





「なぁんだ、アンタも狸か!」

「むぐっ!?」



突然背後から声を掛けられ、その仲間と思われる人物は饅頭を詰まらせそうになっていた。

どうにかごくりと嚥下すると、その人物は慌てて寿の方に振り返る。



「だっ、誰ですかいアンタは!?」

「ああ、俺かい?俺は柳森神社に棲みついてる、柳森 寿ってんだ。で、アンタは?」

「…フォレスト学園召喚従属クラス四年、一平屋 軽助でさぁ」

「へ〜、軽助ちゃんかぁ」

「うへぇ、ちゃん付けで呼ぶのは止してくれやせんか…なんせ慣れてないもんで」

「えー?でも軽ちゃん女の子でしょ?」

「へ!?な、何であっしの性別を…」

「へへ〜、俺男女の判別は百発百中、匂いで当てれるんだよねぇ」

「………」



にへっと締りのない笑顔で話す寿だが、軽助はそんな彼を訝しげな眼差しで見つめていた。

しかし彼は構わず、そうそうと話を続ける。



「そんな事よりさ。君、狸一の饅頭と酒持ってるだろ?」

「!?べ、別にあっしは饅頭なんか…」

「だってその酒蒸し饅頭は狸一ん所でよく食うもん、隠したって分かるよー。…もしかして、盗ってきたとか?」

「……無人のところの机にぽつんと用意されてりゃ、誰だって頂くってもんでしょうや」

「あぁー、ぎってきちゃったのかー…それも狸一の所から…」



少しばかり罰が悪そうに顔を背けて話す軽助に、寿はどうしたものかと苦笑いするしかなかった。

仲間内だから、必死に弁明でもしてやればどうにか話はつけられるかもしれない。

しかし、犯罪は犯罪である。

彼は少し考えた後、よし、と何か思いついた様子で彼女に言う。



「それじゃ、ひとまず俺から制裁下しておいていいかな?」

「へ!?な、何でアンタが…」

「いやぁ、その饅頭と酒の持ち主の狸一ってのと知り合いでさ…勿論、彼女ん所にも後で謝りに行かないと駄目だけど“俺からも叱っといた”と言っときゃ、ちっとばかし説教も短くなると思うぜ?」

「………分かりやした。煮るなり焼くなり、何でもきやがれってんでさぁ!!」

「おいおい、俺そんな酷いことしないんだけどなー」



困ったようにぽりぽりと頭を掻く寿だが、軽助は覚悟を決めた様子でぎゅっと目と瞑り、正座して待つ。

ふう、と一息つくと、寿は軽助の前まで近付く。



「んじゃ、下しまーす」

「………」



彼の言い方はやや気の抜けるようなものだったが、軽助は何をされるか分からない刑罰に堪える為に、きつく歯を食いしばった。





― 直後、額にべちん!と快い音と衝撃。

その予想外の衝撃と痛みに、彼女は思わず声を上げた。



「いっ…たぁぁぁー!!!」

「あっはははは!良い音したねぇ、軽ちゃん!!」



軽助は、制裁がくわえられた箇所―即ち“デコピン”された箇所を押さえながら寿を見た。

寿は予想以上に良い音がしたのが面白かったのか、腹を抱えて笑っている。



「…制裁ってもしや、今のですかい」

「そうだよ、デコピン。結構痛かったろ?」

「ええ、まぁ…」

「そりゃー良かった、これで狸一にも言い訳が効くってもんだ」



言いながら、寿は軽助の傍にあった饅頭の入った袋と酒に手を伸ばす。

軽助がそれを眺めていると、彼は何を思ったかおもむろに袋に手を入れ、そのまま饅頭を一つ、ぱくりと口にした。



「え!?あ、アンタ一体何を…!」



そのまま袋を持って返しにいくのだろうと思っていたが、寿は当然といった様子で饅頭をもぐもぐと食べる。

更に反対の手にしていた酒の瓶の栓を開け、それをごくごくと美味しそうに飲む始末。



「ッぷはーっ!いやぁ、やっぱ狸一の所の酒と饅頭が一番美味いねぇ!」

「…それ、その狸一とやらに返すんじゃないんですかい?」

「へへ〜、こうすりゃ共犯だろ?一人で説教ってのもつまらんだろ、一緒に怒られてやるよ」

「……とか言って、ただアンタが飲み食いしたかっただけじゃぁないんですかい」

「ありゃー、バレてた?」



へへ、と悪戯っぽく笑う寿に、軽助は苦笑して溜息を付いた。



「んじゃ、仲良くお説教されに行くとしますか!」



寿はそう言うと、酒の瓶を片手に公園の道の方へと歩きだした。

軽助も饅頭の入った袋を手にすると、彼の後に続く。



そうして二匹の狸は、仲良く並んで饅頭と酒の持ち主の元へと向かって行った。





*END*



* * * * * * *

多分寿は、道中手にしてる瓶の酒飲みながら歩くと思います。

で、狸一さんの所に到着する頃には空っぽ←

そして狸一姐さんに「寿、アンタ此処に来るまで酒飲み過ぎ。一瓶空にしやがって」とバックドロップ食らってればいいと思います!(ぇー)

でも寿はそんな愛の鞭も受け止めまs(黙れ)

軽助さんは寿のデコピン制裁くらったから、残りのお説教はこやつが請け負うという…笑

21:58|comment(0)

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