2013.12.01.Sunday



竜彦は、ただ呆然とするしかなかった。

というのも、彼が自販機まで飲み物を買いに行って帰ってくるまでの間に、妖人科の生徒達が皆一様に幼児と化していたからである。
突然幼くなった生徒達は皆、混乱した様子でわーきゃーと騒いでいる。

その中で唯一、教室出入口に立って楽しげに笑う人物が一名。


「ほーほほほ!皆、とーっても可愛らしいわよぉんv」


うっとりとした恍惚の表情を浮かべながら妖人科の生徒達を眺めるのは、手には大きな水鉄砲、そして迷彩服に身を包んだ桃色の保健医―もとい、桃子先生であった。
竜彦は気が遠くなるのを堪え、ふらりと彼女に近付き声を掛けた。


「やっぱり先生の仕業でしたか…」

「あらん?竜彦くんはオサナクナールを浴びなかったのねん、ざんねーん」

「残念じゃありません、むしろラッキーです」


はぁ、と惜しげに艶めいた溜息をつく桃子先生を尻目に、竜彦はきっぱりと答える。


「それはそうと…皆を元に戻す薬はちゃんとあるんですか?」

「それなら問題ないわよんv時間が経てば元通りになるからん」

「そうですか、ならば良かっ…いや、待てよ。…ちなみに時間にして、どれくらいで戻るんですか?」

「そうねぇん、約一日は効力が持つかしらん?」

「一日!?」


桃子の言葉を聞き、竜彦は驚き目を見開いた。
しばしの間の後、一度教室をちらりと横目で見る。
驚いて泣き出す生徒、心持ちまで子供に戻ったのかはしゃいで駆け回り遊び出す生徒、黒板に落書きをしだす生徒。
その光景は宛ら、低学年の休み時間の教室のようである。
とても次の授業の続行は不可であるその様子を見て、竜彦は深い溜息をついた。と同時に、三年の担任が更に死んだ目をして頭を抱える姿が容易に想像できたのであった。
気を持ち直して、教室内の光景を眺めて心から楽しんでいる様子の彼女に問いかける。


「桃子先生…一体何を思ってこんなテロを?」

「あらん?それは勿論、私の萌・えvのために決まっているじゃないのんv」

「………」


最早言葉すら出ない竜彦であった。
そして、そういえばこの学園はこんな欲望に忠実な人達が沢山いたな、と改めて実感するのであった。

そんな中、がたんと机同士がぶつかる音が響く。
竜彦がそちらに目を向けると、何やら見覚えのある面影の子供と手足が一本ずつ多い子供が喧嘩を始めた様子であった。


「いててて!むしあけ、髪つかむなーっ!!」

「うわぁぁぁん!いつきどのこそ、せっしゃのほっぺたつまむなぁ!」

「あははは!いいぞむしあけ、もっとやれー!」

「…壱鬼!?と、虫朱なのか!?となると、あれは狐乃衛か!」



取っ組み合いの喧嘩を始めたのは、妖人科三年の壱鬼と一つ下の後輩の虫朱であった。
そしてその傍らで傍観して野次を入れたりしているのは、狐乃衛。
本来なら鬼は力が強い妖怪であるが、今回は幼児となっている上相手は土蜘蛛の妖怪で、手足の数がそれぞれ多い。
子供と化して腕力がほぼ等しくなった二人では、当然壱鬼の方が劣勢になる。
(ぽかぽかと叩く程度の喧嘩ではあるが)喧嘩で力負けしてる壱鬼というのも何だか奇妙な光景だな、と竜彦は一瞬思ったが、放っておく訳にもいかず慌てて二人の止めに入ろうとした。

が、そこに威勢の良い声が一つ飛び込んだ。


「こらーっ!!むしあけいじめんなー!!」

「あでっ!?!?」


勢い良く飛び蹴りをかましたのは、虫朱の姉である、妖人科三年の多乱寺 虫知であった。
どて、と倒れ込む壱鬼に向かって、彼女は仁王立ちして高らかに宣言する。


「むしあけをいじめていいのはね、あたしだけなんだからっ!!」

「あ、あねうえ…」


本来ならば助けてくれて涙ぐむのであろうが―彼女の言葉を聞いた虫朱は、違う意味で涙ぐんでいる様子であった。
そして倒れている壱鬼の背後から腕を回し、首を締め上げる虫知。所謂チョークスリーパーという技である。


「わかったかー!わかったならへんじしなさーい!!」

「…っ!く、苦しっ…!!」

「まずい、壱鬼の顔色が変色してきている…!桃子先生、止めましょう!」

「ふふふ…本当、子供って無邪気で可愛らしいわよねぇんv」

「そんな事言える程、あれはほのぼのした光景じゃありませんからね!?」


壱鬼の生死が彷徨われる前に、竜彦は慌ててマジなプロレスを始めた二人を止めに急ぐのであった。

*END*


− − − − − − −


多分、壱鬼がまた調子に乗って虫朱君にちょっかい出したんだと思います(´・ω・`)
そして子供になって、我慢にもまだまだ限界がある彼に返り討ちにあうという笑
自業自得な壱鬼を見て、狐乃衛はただ楽しむ。この頃から既に狐乃衛の傍観者に徹する人格は形成されてます(ぇぇぇ)
とありえず、壱鬼が虫知さんにフルボッコにされるオチが書きたかったんだ…!(ちょ)

真田様、勝手に多乱寺姉弟お借りしてすみませんでしたorz


21:51|comment(1)


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