2013.11.22.Friday

 

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「くそ…壱鬼達の野郎、おかげでこんな時間になっちまったじゃねぇか…」


夕暮れ、とある片田舎の駅のホームでそう愚痴るのは、妖人科三年の生徒、天信。
オレンジ色の斜陽がさしこむホームは人気がなく、がらんとした空間に天信ただ一人ベンチに腰を掛けている。

今日は妖人科は、午後から妖術の扱いに関する課外授業があり、学園から少し離れたある町でその特別授業がとり行われたのである。
参加は自由であった為、個人の意思によって出欠は委ねられていたのだが―
天信の場合、壱鬼達の

「絶対来いよ!!絶っっ対、だからな!」

「だっ、誰が行くかよ!」

という、お笑い芸人さながらのフリにより、簡単に参加を決意したのであった。

そして壱鬼達の期待に応えるべく、その授業が行われる土地へと赴いた。
しかし校外での授業という、普段とは異なる環境のためなのか、テンションの上がった壱鬼と狐乃衛に散々弄られおもちゃにされたのであった。
その勢いは、普段はフリに何かと応えてくれる天信が困り眉で、小さく溜息を吐くほどであった。
その様子を見ていた竜彦は、そろそろ助け舟を出そうかと思い、ぎゃあぎゃあとふざけながら天信を囲んで騒ぐ二人に声をかけようとしたときだった。


「くらえ、天信ーっ!!」

「うわっ!?」


隙あり、と言わんばかりに壱鬼が天信の背後からタックルをけしかける。しかし場所が悪かった。
彼等がいたのは、術の実践に合わせて屋外の自然が溢れ返る場所である。その中には勿論、水辺もある訳で。
運悪く天邪鬼の彼は、その池の中へと突き落とされのであった。




その後、壱鬼からは土下座で謝られ狐乃衛も謝罪しながらタオルを貸してくれたり竜彦は壱鬼を正座で説教したりと、各々から気を遣われたのではったが。
全身ずぶ濡れとなった天信は、登校時と同じ姿で帰宅は不可能となったのであった。
服は壱鬼の妖術で乾燥してもらった為問題ないが、髪形はいつものオールバックが崩れてしまっていた。
狐乃衛がワックスを持参していたものの、天信の普段のヘアスタイルを維持できる強さは無いと言う。
仕方なく彼に調髪してもらった所、まじまじとその様子を見ていた竜彦が一言。


「天信、そっちの髪型の方が良いんじゃないか?」

「…はぁ!?」


どうやらオールバックという髪型は、彼のアイディンティティーらしい。
私生活においてその形を崩すのは、家以外では有り得ない、といった様子であった。
そこでまた壱鬼や狐乃衛達に軽くからかわれるのだが、それはまた後の話である。









指先で後頭部付近の毛先を弄りながら、溜息混じりに呟く。


「こっちの髪型はなぁ……厳つさが足りねぇんだよなー…」


今一つ気に召していない様子であったが、ホームに響く到着のアナウンスにより天信の気はそちらに紛れた。
電車を待っている間に買った缶ジュースを飲み干し、ゴミ箱に捨てた後一つの車両に乗り込んだ。


「うわ、誰もいねー」


電車は三両だったのだが、天信が乗ったその車両には誰もおらず、ただ夕暮れの暖かな色の陽が射すだけであった。
今なら座席に横たわっても誰も文句言わないだろうな、等と想像しつつ、天信は中吊り広告を眺めながら適当な席につこうとしていた時だった。
軽やかな足音が、外のホームの後方から響いてくる。そして、とん、と一人彼のいる車両へと飛び乗った。
ああ、束の間の車両独り占めの時間が終わったなぁと思いながら、何気なく乗ってきた人をちらりと目線を向け確かめる。





心臓が飛び出そうになった。

桃色の髪に緑の帽子、リボンのあしらわれた可愛らしい服装に身に包むその人物は、紛れもなく彼が想いを寄せる人物― 妖人科の生徒、優宇であった。


「ふぅ、間に合ったー」

「なっ…!?は、ゆっ、優宇!?」

「あれ?…天信さん……ですよ、ね?」


普段と違う髪形のせいなのか、天信なのか些か疑問を抱いた様子でまじまじと見つめる優宇。
そんな彼女の視線に、頬を紅潮させながら慌てて外方を向く天信。
しかし優宇はそんな天信の様子に気付く気配もなく、にこりと笑って話す。


「髪型変えたんですね!いつもと雰囲気が違っていて、一瞬天信さんだって気付きませんでした!」

「そ、そーかよ…てか、これじゃやっぱ俺らしくねーよなぁ」


矢張り不満げに呟きながら、くるりと踵を返して背を向ける天信。



慣れないといった様子で頭を掻く、そんな彼に優宇はにこやかに言葉を投げかけた。


「でも、そんな髪型も素敵だと思いますよ?」

「……はっ!?」


天信は一瞬時が止まった様にぴたりと動きを止めたかと思うと、慌てて彼女の方に振り向く。
優宇は相変わらず口元に微笑を携えたまま、ただ不思議そうなきょとんとした眼差しを彼に向けていた。


「…い、いいか?この髪型…」

「はい!とっても似合ってますよ」


屈託のない笑顔で答える彼女に、天信はいよいよ以って顔の火照りに限界が来たのを感じた。
しかし夕日のオレンジ色の日差しのおかげで、どうにか彼女にはばれないくらいにはごまかされているのに、内心感謝した。
そうしてまた慌てたように背を向けると、ぎこちない口調で返事をする。


「べ、別に褒めらても嬉しくねーし、何も出ねーからな!」

「ふふ、ポケットからお菓子とか出てきたら良かったかもですねー」

「持ってねーし!小銭しかねーし!」


そんな会話をしながら、天信の内心には“オールバック”という髪型以外の選択肢が増えそうになっていたのであった。



*END*




(・∀・)おまけ(・∀・)



「そういえば、優宇も課外授業に来てたんだな」

「はい、この授業で自分の能力が少しでも伸ばせるのなら…と思いまして」

「へー、勉強熱心だな」

「いいえ、そんなことないですよー」


走り始めた電車内で、席に腰をかけて談笑する天信と優宇。
しかしふと彼の頭に浮かんだ疑問がある。


「けどよ…何でこの時間帯に帰ってんだ?皆先に行っちまっただろ」

「ああ、それでしたら…狐乃衛さんが“夕方頃に電車に乗ると、珍しいやつってかものが見れるよ!”と仰ってたものでして。それまで近くの図書館で時間を潰していました」

(…狐乃衛の野郎ぉぉぉ!!!)


狐乃衛の言う、その面白いものとは恐らく自分の髪を降ろした姿の事だろう。
にやにやとした悪どい笑みで、優宇にそれを吹き込む姿が容易に想像できた。


「でも…珍しいものって、一体何なんでしょうね?」

(ああああ言えねぇそれ多分俺だって事言えねぇぇぇ)


好奇心に目を輝かせながらきょろきょろと車内を見渡す優宇とは対照的に、どんよりと項垂れる天信。
何てフォローしてあげようかと悶々と頭を抱える天信の横で、彼女は何かを見つけた様子でその一点を見つめた。


「…あれ?もしかして狐乃衛さん、あれの事を言ってたんですかね?」

「ん?」


顔を上げ、優宇が指差す先に目を遣ると―
電車の外に見える夕日が、水平線へと沈もうとしているところが視界に映った。
しかしそれは、海面に映し出された夕日とくっついて宛ら頭と胴体に見える所謂だるま夕日だ。
中々見れないその夕日の姿に、天信はぽつりと呟く。


「ああ、だるま夕日って奴らしいな。確かにあれは珍しいものらしいぜ」

「わあ、本当ですか!そんな珍しいものが見れることを教えてくれた狐乃衛さんに、感謝ですねっ!」

「…ま、まぁな…」

素直に喜べないのは、狐乃衛の本意に気付いてしまったからだろう。
無邪気にその景色を楽しむ優宇と、何やら複雑そうな表情を浮かべる天信。
そんな二人を乗せて、電車はただ淡々と進む。




 − − − − − −


狐乃衛の策謀により、天信と優宇ちゃんが乗り合わせ作戦が上手くいったようです(ぇ)
ついでに偶然珍しい夕日も見れたそうですよやったね天信!(・∀・)b

優宇ちゃんは他人を褒めるのが上手なイメージがあります。
何でも良いところを見つけてそれを素直に言ってくれそう。
それに反して天邪鬼な天信ェェ…(白目)

ちなみにこの話書く切っ掛けになったのが、ただ単に天信の髪下ろした絵が始まりです笑

ここから色々と付け加えてこうなった。どうしてこうなっry
あと、優宇ちゃんもうpしちゃう!(ぇ)

未だにぱっつん前髪の女の子が上手く描けませんorz

ちなみに背景は素材をお借りしました。
そしてねこまりも様、勝手にお借りしたり動かしてすみませんでした…( ´Д`)┌┛)`д)オフゥッ;∴


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