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少したって、窓から見える空がオレンジ色になってきた。
その時、ようやく沈黙が敗れた。雅樹だった。
「‥そろそろ暗くなるし、帰るか」
少しぎこちなかったけど、なるべく柔らかく言おうとしてくれてるのが伝わった。
リュックを持って、頷く。
雅樹は今どんな気持ちでいるのだろう。
まだ怒っているかな。
「駅まで送る」
「‥いいの、」
「道、わかんないだろ?」
雅樹は控え目に笑った。
会話もせず家を出て、歩いて、‥駅が見えてきたかなってとこで雅樹がまた沈黙を破る。
「仁さ、今日ごめんな。‥俺、仁の気持ち考えてなかった。」
なんで、なんで謝るんだ。
俺がまず謝るべきなのに。
慌てて首を横に振る。
「お、俺こそ、ごめん、たたいちゃったし‥」
「いいよ、もう」
道路ばかり見てたけど、そっと雅樹を伺うと笑ってくれた。
なんでだ。なんでそんなに良い人なんだ、なんで。
キスについて、ガキだったと謝ろうかと思ったけど、恥ずかしくてできなかった。
駅の中に入ると人がいっぱいいて、せかせか歩いていく。
ここでいいって言ったけど、改札までと返ってきた。い、良い人‥
「雅樹‥なあ、ちょっと、」
「ん?」
「‥あ……好き、‥て、そんだけ……、」
…な、んか‥ヘロヘロになった、はずかし!やっぱこれ毎回言うのは無理、だめだこれ!
勝手に恥ずかしくなってると、雅樹はクスッとイケメンに笑った。
「仁てさ、たまに可愛いことするよな」
「うっせ…も、帰るから」
「ん、わかった。‥ありがとな」
…ありがとう?
俺は、改札出て一回も振り返らなかった。
まだ恥ずかしいってのと、仲直りできたみたいで嬉しいのと、言えたってほっこりしたのと、あと、
‥ちょっと悲しかった。
まだ欲しい言葉は返ってこない。
end
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