09(3/4)




「できた」

「ほら、行くぞ」


……あ、今自然な流れで手を繋ぎそうになった。
思わず。
手を引っ込めたのは、人がいるから〜とかそんな理由じゃなくてただこっぱずかしいから。
力を込めすぎて愁の手を潰してしまったらどうしようとかも不安になる。


「………?」


愁が、さっきからどこか見てる。
隣で歩く俺を見ているわけでなく、空でも地面でもない。
ただ少し前を歩く人を…
人を?


「!……」


愁が…、女子高生を見ている…?
間違いない。ほぼ間違いない。
俺達より前を歩くその女子高生は制服からして他校で、勿論だが知らない人だ。
顔は見えないけど髪はつやつやの長髪。まさ、まさか愁…見とれてるのか…?
うそだ、ありえない。
でも確かにさっきからその女子高生から目を離さないし、脚のあたりをジッと見つめて…嘘だろ…


「ねえ、直樹、直樹」

「あ………なんだよ」


声をひそめる、といった風もなく声をあげ、こっちを向いたその顔はなんだか凄く楽しそうに笑っている。
なんだよ、あの女子高生がお前をそんな笑顔にしたのか。

モヤモヤしている俺の気持ちを知ってか知らずか、愁はその例の女子高生をビシッと指指した。


「あの人。」

「………なんだ?」

「タイツがね、膝裏の所。穴が開いてるよ」

「……!!」


…本当だ。
愁が指を指したとこ部分の黒いタイツが確かに小さな穴を開けて、その部分だけ素足が見える。
本当に一部分だけど。言われなきゃ気がつかないくらい。

―て、


「みて、歩くと穴の形がうにょうにょ変わるんだよ、見ててみ─ほら、ほら…」

「あ…いや、あ…」


前の女子高生が、チラッと後ろを振り返った。
俺を見て、「お前のツレはどうなってんだ」見たいな顔をして睨んできた。


「愁、わかった…もうわかった。縫い忘れてたんだろ、やめろ。」

「右足を前に出す瞬間が一番、穴が広がるよ──ね?」

「愁」


俺は、女子高生の脚を指差して楽しそうにする愁の注意をその他に向けるのに随分と時間をかけた。

 

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