ある日の事、大学の講義中に突然雨が激しくなり傘を持っていなかった宗介はしばらく空き教室で時間を潰す事にした。

窓を叩きつける雨をボーッと見つめていると、パタパタと足音がして誰かが宗介の横に座った。

「宗介!」
「…真人」

真人は宗介に笑いかけると机の上に腕を組んで宗介の方に向く形で顔を伏せた。

「雨最悪だよねー」
「うん」
「相手探そうと思ってたのに…今日はやめよう」

真人はスマホをいじりながらつまらなそうに口を尖らせた。

「真人って俺に忘れてほしいの?忘れてほしくないの?」
「…だって話し相手になってくれるんでしょ?」
「あ、うん」

真人は上半身を起こしてスマホを続ける。
何か文字を打っているらしいが宗介は画面を見ないように務めた。

「毎回違う人と会うんじゃなくて恋人作るんじゃだめなの?」
「んんーそれは…ダメだよ」
「なんで」
「なんでって…わかんない?」
「…………」

まあわからない事もない。
特定の相手を決めない体だけの関係ってのは楽なんだろう。
実際宗介だって真人の動画を見て抜いてしまったけど、それはそれこれはこれとしてあっさり開き直っていた。
もちろんその事を真人に知られるわけにはいかないけど。
宗介は曖昧に頷いた。

「恋愛するのって心のエネルギーがいるじゃん…面倒くさいから今はそういう気分じゃないの」

真人はスマホをスリープさせてカタンと机の上に置いた。

「ああでも、デートしたいなあ…こう、胸がときめくような」
「胸がときめく…」

突然乙女みたいな事を言い出した。
恋愛は面倒くさくて体だけの関係を求めているけど胸がときめくようなデートをしたい…。
真人の素直な欲求に宗介は思わず笑ってしまった。

「じゃあしよう、デート」

宗介が真人に言うと、真人は「ええ?」と言って視線を合わせた。

「…宗介と?なんで?」
「なんとなく。したいっていうから」
「………本気?」

ほんの出来心で名乗りをあげてみた。
体の関係を持たず、恋愛も面倒くさくてただデートしたいだけなら自分が行っても特に問題ないんじゃないか。

それに真人の事だからSNSで不特定多数に向かってデートの募集をかけるんじゃないかと、少し心配でもあった。

「…ダメならいい」
「待って!ダメじゃないダメじゃない!しよ!」

真人は席を立とうとした宗介の腕を慌てて掴んで座らせた。

「びっくりしたあ…でも宗介の事かっこいいと思ってたから嬉しいな」

真人がケロッと笑って言うので宗介は少し呆れてしまった。
だけど悪い気もせず、複雑だ。

今週末に会う約束をした頃には雨が随分弱まってきたので、その日は別れた。



日曜日。
宗介は洗面所で鏡に向かっていた。

今日は真人とデートする日だ。
家を出るまでにあと30分ある。
デートと言っても、実際はただ遊ぶのと変わらないと思う。
だけど一応名目はデートだから…

「……何もしないのもまずいか」

宗介は普段からあまり髪をいじるタイプではないけど、やる気がないと思われてもマズいのでワックスでほんの少しだけセットする事にした。
服も、近所のスーパーに行くような格好ではマズいから…。

考えているうちにだんだん緊張してきた。


待ち合わせの時間の10分前に着くと真人はまだ来ていなかった。
結局、時間のほとんどぴったりに真人は来た。

「ごめん!待った?」
「…待ってない」

一応そう言うと、真人はジッと宗介の顔を見つめたので思わず目をそらす。

「…何?」
「なんでも…行こ!」

真人はニコッと笑うと約束していた映画館の方に歩いて行った。
真人の後ろ姿をぼんやり見つめる。
普段通りの格好だ。
だけど真人は普段からしょっちゅう人と会っているせいか、いつでもシンプルだけど小洒落た格好だ。

映画館に着くと、真人が少しお腹が空いたというのでポテトとドリンクを買ってやった。

「お金払うよ」
「いいよ。デートだから」

そういうと真人は静かになってしまったので、宗介も自分で言って気恥ずかしくなった。

映画は話題になっているアクション映画を観た。
デートにふさわしいかは知らないが、お互いに興味があるものを見た方がいいはずだ。

映画を観ると、真人は買い物に行きたいと言うのでついていく事にした。
映画を見たらブラブラしようという曖昧なプランしかたてていなかった宗介は胸をなで下ろす。

「映画どうだった?俺、ここ最近観た中で一番面白かった!」
「うん、よかった。でもちょっと都合良すぎたと思う」
「えー。それは映画なんだからさあ」

真人がムッと頬を膨らますのが面白くて思わず笑ってしまう。
真人もそんな宗介を見て、照れたように笑った。

二人は服や雑貨店などが入っているショッピングモールに来た。
真人はある雑貨屋の前で店内を指差してはしゃいだ。

「なんかお揃いのもの買おうよ!」
「お揃い…?」
「いいじゃん、だってデートだし!」

真人の声に近くにいた女の子がチラッとこっちを振り返ったので、宗介は慌てて店の奥に進んだ。
真人も後をついてくる。

「…で、どうする?」
「買っていいの?」
「うん、まあ………」

なるべく小声で言うと、真人も察したようで声のボリュームを落とした。
だけど楽しそうにニコニコ笑っているので、宗介も自然と嬉しい気持ちになった。

「どうしようかな!なんか普段使いできて、邪魔にならないやつ…」
「ペンとか」
「だめ」
「じゃあ靴下」
「だめ!ねえ、少し黙ってて」
「………」

なんでだめなんだ。
ペンも靴下も普段使いできるし、実際宗介がそろそろ買い足そうと思っていた物たちだったのに。



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