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宗介は大学の食堂で友達と昼食をとりつつ話していた。

「俺昨日彼女とさ、泊まれる本屋?ってのに行ったんだよ。知ってる?」
「知らない…泊まれる本屋?」

友人の言葉に興味を引かれて食いつくと、友人はスマホを操作してその本屋のウェブサイトを見せてくれた。

本棚が並んでいて、その中にベッドがある。
料金を払えば一泊してベッドで寝ながら本が読めるというコンセプトらしい。

宗介は高校の時まではよく本を読んでいたものの、最近は読まなくなったことを思い出した。

「面白かったから…おすすめ」
「へえ」

友人はそのまま彼女とのエピソードを話し始めた。
右から左へ聞き流しつつ、宗介は真人を誘ってみようと考えていた。
真人が本に興味があるかはわからないけど…面白そうだし、喜ぶかもしれない。



夕方講義が終わった頃、真人に連絡を入れてみた。

"泊まれる本屋ってのに行ってみようよ。"

早い時はすぐにでも返信が来るものの、大学からバイト先に行くまでの間に返信がなかったので宗介はスマホを見るのを諦めてバイトに行くことにした。






バイトを終えスマホを確認するとつい数分前に真人からの返信が来ていたところだった。

"なにそれ 行ってみたい!"

宗介は真人も行ったことがないのだと知って嬉しくなった。
早く会いたい。
なるべくすぐに予定を立てよう。

宗介はバイトからの帰り道、歩きながら真人に電話をかけた。
1回、2回とコールが鳴って、繋がった。

『はい。宗介?』
「うん」
『バイトお疲れ様!』
「ありがとう」

電話から聞こえてくる明るい声に心が弾む。
真人は今何をしているんだろう。
自分の家だろうか。
今度、アパートの合鍵を渡してもいいかもしれない。

「あのさ、さっき行った所の…予定立てたいなと思って」
『そうだね!たのしみ。明後日は?金曜だし夜から行けば次の日は休みだし…』
「うん、いいかも。予約しておく」
『たのしみだねー』
「うん、サイト見たけどすごく綺麗だったし…」

すると、パタンと電話の向こう側から扉の閉まる音がした。
音が遠いから真人ではない。そして、声も聞こえた。

『風呂出たよー、お待たせ!…ってヤベ、電話?』

知らない男の声だ。
お父さん?お兄さん?弟?それとも………

『あっ…俺も宗介に連絡もらってから調べたよ!!綺麗だった!!』
「あ…うん」

真人の声は突然さっきよりも元気になったみたいだった。
まるでさっき聞こえた声から意識を逸らそうとしているように聞こえて、嫌な予感がした。

『じゃあ、また明日ね!』
「…うん、おやすみ」

ポカンとしたまま挨拶するとすぐに電話が切れた。
もう少し話したい事もあったのに。
店の場所はあそこだとか朝ごはんが出るらしいとか、まあ他愛もない事だけど、宗介は真人と他愛もない話をする事がすごく好きだった。

誰だったんだろう。
風呂入ったとか言ってたから普通に考えられるとすれば家族か。
でも真人の事だから……。


アパートについた。
一旦落ち着こう、部屋に入って、落ち着いてから確認したらいい。

宗介は部屋に入るととりあえず部屋着に着替えてみたりなんかして、それで再びスマホを片手にベッドに寝転んだ。

仰向けになってスマホを上向きにして画面を操作する。
…真人を信じてやれていない自分が恥ずかしい。
でも信じているからこそ確認したいという気持ちもあった。

宗介はブラウザのお気に入りから真人のツイッターを開いた。
最新の投稿はつい1時間前。
宗介がまだバイトしていた時間だ。

"久しぶりにヤレると思ったけど今回は無しになった!
裸で添い寝だけしたー"

「……………」

宗介はスマホの電源ボタンを必要以上に力を込めて押した。
暗くなったスマホをベッドのそばにあったクッションにボスンと投げつけて、布団を被った。

何でだよ。
久しぶりにって以前身体を重ねてから1週間もたってない。
なんで無しになったんだ、なんで添い寝はしたんだ、なんで添い寝するだけで服脱いだんだ、てかあいつ誰だよ。

ワーッと心の底から悲しい気持ちと、しかしそれ以上に真人に対する憎しみや落胆する気持ちがこみ上げてきた。


付き合っただけで自分のものになったと思っていたのが間違いだったのか?
真人は何を考えている?

ツイッターの投稿時間とさっき電話から声が聞こえた事を考えると、真人は宗介のラインを返したときも電話に出たときも、ホテルなのか誰かの家なのか知らないが同じ場所に男がいたのだ。
風呂待ちだったとも知らずに宗介は真人と電話して心が満たされるなどと思ってしまった。

馬鹿みたいだ。
帰ったらシャワーを浴びて例の本屋さんの予約を取ろうと思っていたのに。

何もやる気が起きなくて、宗介はそのまま寝てしまう事にした。




翌日、食堂で宗介を見かけた真人がパタパタと駆け寄っていつものように明るく笑うので、宗介は余計に心が冷たくなる感じがした。

「宗介おはよう!昨日ごめんね、途中お父さんが電話邪魔しちゃって…うちのお父さん声がでかいんだ」

真人は冗談っぽく笑った。
嘘をついてる…。
その事がショックだった。
大好きなこの笑顔で嘘をつかれるなんて。

宗介はなるべく感情的にならないように抑えながら、静かに言った。

「へえ。お父さんと裸で添い寝するんだ」
「…え、」
「ツイッター見た。ごめん、鍵かかってなかったしすぐ見れた。…週末の約束、やっぱりなかった事にさせて」

真人の顔からみるみる笑顔が消えて、青ざめていく。
だけど自分の方がよっぽど青い顔しているはずだと宗介は思っていた。




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