ここ最近の自分はかなり健気であったと思う。奴の挙動一つ一つにすぐ気がついては反応して、前の自分であったなら絶対にしなかったであろう笑顔を浮かべてみたりして、自分で自分が心底気持ち悪かったが、まぁいいかなんて流してしまった。丸くなったといえばその通りだろうし、意気がるのに疲れたというのもまた確かだった。ゆるやかに過去の自分が壊死していくのは、悪くはなかった。
鬼道と二人で電車を待つ。春に差し掛かったとはいえまだ冷える。手を擦り合わせていると、ホラ、と鬼道がホッカイロを投げてくる。受け取るが、生温い。その生温さがまさに鬼道みたいで笑ってしまった。雷門と帝国の卒業式は同じだったから、式が終わったあとに、いつものメンバー以上に大所帯で騒いだ。結局は卒業証書も投げ出してサッカーを始めてしまって、解散してからもその熱が冷めない。鬼道もどこか饒舌で、今はほぼ鬼道が話している状態だ。鬼道はどうやら高校は帝国に戻るらしい。雷門には高等部がないからだ。また一緒にサッカーができるなと笑う鬼道の発言を適当な相槌で濁す。俺はまだ鬼道に言っていないことがある。俺は、鬼道が帝国に戻ってきてももうそこにはいない。こいつの隣には二度と立たない。少し前、気まぐれを起こして考えた。俺はこいつのために何ができるだろう。今までの罪滅ぼしか、あるいは。とにかく、最近の俺はかなり健気にこいつに接していたと思う。こいつのためならなんでもやったし、なんでもできる気がした。佐久間の奴を笑えないくらい。そんな自分を馬鹿だと笑いつつも考えたのだ。隣で鬼道が笑う。じくじくと心臓が痛む。まもなく電車が通過致します、とアナウンスが流れる。なぁ、鬼道クン。堪えきれなくなって俺は鬼道を呼ぶ。なんだ、と鬼道が振り替える。あのさぁ、俺さぁ。その先を口に出来たのかわからない。口に出来たにせよ、快速列車が通過する音で消されてしまったに違いない。消された発言をもう一度聞こうとする鬼道に首を横に振る。なんでもない。そうでなくてはならない。大したことがないと、言い聞かせなければ。自分に、こいつに。
バイバイ、鬼道クン。もう二度と会わないから。これで本当にサヨナラだ。色々嫌なことや思い出したくないことが誰にでもあるんだろうけど、お前は誰よりもそれが多いんだろうね。その大部分に関わっていたからよくわかる。だからさぁ、鬼道クン。俺がお前に二度と会わないことが、一番お前のためにしてやれることだと思うんだ。だって俺がいればお前は何度でもそれを思いだしちゃうだろ。お前は俺のことも含めて、全部忘れちゃえばいいんだ。忘れちゃえよ、さっさと。俺だけが覚えていればいい。俺自身のことも、お前となにがあったかということも、この感情だって、俺だけが抱えて沈んでいくから。

「バイバイ、鬼道クン」
駅のホームに降りて、俺は手を降った。たぶん俺は笑えていたと思う。誰も見てないなら、少しくらい美化したっていいだろう。
春が過ぎて夏が来ても、俺は未だに鬼道からもらった、すでに冷たく固くなったホッカイロを捨てることができない。。





もともと長編用にあるこれ考えてたけど色々めんどうでボツったものの切れ端










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