夏だ。夏といえば花火で海で水着でデートで夏季補習で部活でつまりは青春なのだそうだ。鬼道の妹曰く。しかし俺たちにとっての夏は夏季補習と部活でスケジュール帳がびっしり埋まり、花火だの海だの水着だのデートだのそんな華やかで爽やかで糞ったれた青春的要素はまったくと言っていいほど存在していなかった。

「あっちぃ」
「涼しそうな頭してるくせに」
「るせぇ」

 小鳥遊はスカートのくせに足を広げて下敷きで空気を送っている。ちらっと見れば、短パン履いてるし期待すんなばぁーかと吐き捨てられ、どうせ色気ねー女のパンツなんかには用はねぇよと返せば殴られた。ぐーだ。容赦というもんを知らねぇ女め。そりゃ本音を言えばちょっとは期待したけど。
 非常階段は結構な穴場で、昼飯時にはちょうど日陰になり、風通しもよくて涼しい。普段は鬼道や源田や佐久間もいるが、今日は部長会議やらなにやらで小鳥遊と二人だけだ。鬼道たちがいれば飯を食った後にサッカーでもやって暇を潰すが、小鳥遊と二人きりだとそれも難しい。いくら短パン履いてるっていっても流石にスカート履いてるやつとボール蹴れるわけがない。これだから女は面倒だ。
 どうせこのまま高等部に上がるのに夏季補習なんて面倒すぎる。朝から夕方まで夏季補習、夕方から夜まで部活、夜から真夜中まで自主練。以上夏休み中のタイムスケジュール。

「小鳥遊、ブラジャー透けてる」
「見んな馬鹿。変態」
「教えてやったんだよ馬鹿」
「モヒカン頭に馬鹿って言われたかないわよ」
「てめぇだって変な髪型してるくせして」
「なによ童貞」
「なんだと処女」

 ほら見ろ、色気なんてものはまったくない。
 踊り場に寝転がれば、日当たりの悪いコンクリートは冷たくて気持ちいい。小鳥遊も横に同じように寝転がって、下敷きで首筋を煽いだ。少しだけだがこちらにも風が届き汗を冷やしていく。一時休戦。暑さで口も回らない。

「……海にでも行くか」
「海に良い思い出無いくせに」
「まーなぁ」

 大体、海に行ってわいわい騒いで花火でもやるような面子でもない。振り返ればどこかに一緒に遊びに行った記憶すらない。休日たまに会って行くところといえばスポーツショップか、次の対戦校の偵察くらいなもんだ。本当に色気もなにもあったもんじゃない。人ごみでごちゃごちゃした海なんか糞ったれだ。

「そういえば新しい水着買ったのよね」

 まぁ、たまにはいいかもしれねぇけど。








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