「勉強教えてくれよ」

 不動が部屋を訪ねてきたのは、夕食の時間をとうに過ぎた頃だった。

 当たり前だが、イナズマジャパンは宇都宮を除いて全員が中学生である。FFI日本代表として選ばれたものの、学生の本分は学業であり、サッカーを言い訳にして成績を落とすことは許されないのだ。もちろんイナズマジャパンの選手たちは日本中の学校から引く手あまただろうが、だからといって勉強をしなくてもいい言い訳にはならない。イナズマジャパンは頭脳プレイという点においてはまだまだ欠陥を抱えていた。
 各自学校から一定量の課題を与えられているから、夕食後に食堂でそれを進めようとする者も多い。基本的に一人で進めるよりも大勢でやった方が能率が良いのだ。しかし不動はその輪から外れて、こうして一人で部屋を訪ねてくることがあった。

「教員免許持ってるんだろ」

 机の上の資料を不動は勝手に寄せていく。大事なもの、そうでないもの、全部ひとまとめにして不動は床に落とした。清々しいほどばさばさと落ちていく紙の束に、溜息ひとつ落とすことすら面倒だった。

「お前はそれほど成績が悪くないだろう。イナズマジャパンの中でも成績は良いはずだ」
「それ、俺が頭良いわけじゃなくて、あいつらが頭悪いんだよ」

 鬼道クンみたいに天才ってわけじゃねーし、そう言いながら不動はどこからか椅子を引っ張り出してきてそれに座る。床に落とされた書類の代わりに机に置かれたのは、見覚えのある五教科のテキストだった。不動は現在、海に沈んだ真・帝国とは違う別の中学に在籍しているはずだが、まともに学校に行っているのかいないのか、学校から課題が出されていないと言い出したのだ。そこで買い与えた課題がこのテキストだった。

「それで、どこがわからない」
「ここ。この応用問題」

 質問しに来ている生徒を無碍に扱うことは出来ない。不動からペンとノートを受け取り、数式を解いていく。テキストはそれなりのレベルのものを与えていたが、使用感から、一人でも一応勉強はしているらしい。これだったらまた新しいものを買ってやってもいいかもしれない。そんなことを考えながら不動を見れば、目があった。どうやらこちらの手元ではなく顔を見ていたらしい。

「眉間に皺。もしかして目、悪い? 普段のあんたは仏頂面だから少しでも表情に変化あるとおもしれぇ」
「顔ではなく手元を見ろ」
「別に、そんな問題解けるに決まってんだろ。気づいてるくせに」

 にやにやと意地悪く笑う不動の本当の意図に気づいたのは、それほど最近のことではない。勉強を言い訳にしなければ、こうして二人きりで会うことはない。暗黙の了解だ。不動が勉強を建前にする以上、部屋に入れることを拒むことは出来ない。不動はそのことを十分理解し、勉強道具を持参して部屋のドアをノックするのだ。

「今度からはもう少し難しいテキストを用意しておこう」
「そしたら俺がもっとこの部屋来ることなるけどな」

 不動が机に乗り上げたせいで、ノートにくしゃりと皺が寄る。せっかく書き上げた数式は不動の膝によって無惨に消されていった。俺が将来なりたいもの教えてやろうか。不動が笑いながら囁きかけるその言葉から、一般的な進路希望というものが浮かばないのは、首筋に触れる手のせいだろうか。

「俺はあんたの猫になりたい。甘えて強請って、膝の上で気まぐれに愛想振りまいては鳴く猫に」

 手つきは中学生にしては不釣り合いなもので、首筋を撫で回しては、まだ足りないと唇に触れる。そこから言葉を引き出そうと、親指で擦り、顔を近づける。鼻先が触れるか触れないか、そこで止まったのを見て、仕方がなく唇を開いた。

「それは今やろうとしていることと何も違わないだろう」
「んじゃあ、将来は恋人でいいや」

 ただし今は猫だと不動は耳に甘く囓りついた。テキストの散乱がこれ以上酷くならないように、机の上の不動を引っ張り、膝の上に乗せてやる。白く細い首筋は、確かに猫のような首輪が似合うだろうと、求める不動の首筋に強く吸い付いた。








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