「バレンタインってどうすればいいと思う?」

 なんてメールが来たのはバレンタインの前日のことだった 
 何度か不動さんはお兄ちゃんとうちに来たことがあるから、一人でも割とすぐにうちまで辿りついてきてくれた。手ぶらで来ていいとは言ったけれど、手にはコンビニのビニール袋があって、中にはペットボトルのジュースが二本だけ入っている。

「やっぱり、チョコですよ。付き合って最初のバレンタインなんだし、下手に変化球でいくよりは直球勝負でいくべきです」
「だってあいつ金持ちなんだし、それにチョコだって大量に貰うだろ」
「お兄ちゃん、きっと今年からは私のチョコや明らかに義理とわかるもの以外貰わないと思いますよ」
「それでもお前のは食うんだな」
「当たり前じゃないですか」

 だってお兄ちゃんだもの、と言えば、そうだなと真顔で頷かれる。私がチョコをお兄ちゃんにあげることを止めないあたりは、ちょっとだけ安心した。

「それにしても不動さんがバレンタインなんて言い出すだなんて驚きました」
「だって、恋人同士なんだからやっぱり恋人同士らしいことしておいた方がいいだろ」

 そんなこと言って、クリスマスのときも正月のときも、私にこっそりメールで遠まわしにどうお兄ちゃんと過ごしたらいいのか相談してきたのだ、不動さんは。お前の兄を好きになっちゃったんだけどどうすればいい、と聞いてきたのは一年前で、お前の兄から告白されたんだけどどうすればいい、と聞いてきたのは四か月前のこと。そうやって、事あるごとに私に相談のメールをこっそりと送ってくる。これは私だけの秘密だ。
 だから絶対、バレンタインも何か相談ごとがあるだろうしと予想して、例年よりも多く製菓用のチョコを買ってきた。絶対不動さんは女子が溢れている今の時期のお菓子売り場に突入なんて出来そうにはないし。これは痛い出費だったけれど、巡り巡って、お兄ちゃんから何らかの形で還元がくることは間違いないので。

「冷やして固めるだけなら誰だって出来ますしね。ケーキとかもいいなぁ。学校に持っていくなら崩れちゃうのが心配だけど」
「暖房とかで溶けちゃわねぇの」
「部室のロッカーに入れておけば、大丈夫だと思いますよ。昼間は暖房がついてないでしょうし。鍵かかりますよね」

 私が持ってきたチョコのレシピを捲って、ふんふんと頷く。結構意地を張ってこういうイベントには参加しないタイプだと思っていたけれど、さっきから目はずっとレシピを慎重に読んでいる。きっと凝り性だから、割と難しいものを選びそうな気がする。不動さんは器用だから別にいいけど、昨日は大変だったなぁ。

「これ美味そう。この付箋ついてるの」
「あ、それは、駄目です!」
「なんで?」
「え、えっと。私が作るから!」

 被っちゃうと嫌だもの、と主張すれば、不動さんは訝しげにこちらを見たが、再び視線をレシピに戻す。危ない危ない。だってそれは、私が本当に私が作ったものなのだ。正確には、昨日、お兄ちゃんと作ったものだけど。
 不動さんが私に相談メールを送るように、お兄ちゃんも事あるごとに私に相談メールを送るようになった。一年前に不動を好きになってしまったんだがどうすればいいんだろう、なんてメールを。半年前には不動に告白するにはどうすればいいんだろう、なんてメールを。四か月前には不動に告白してしまったのだがどうすればいいんだろう、なんてメールを。告白が成功してからは、クリスマスや正月の過ごし方なんかをよくメールで聞いてくるようになった。私は不動さんの相談役でもあるが、お兄ちゃんの相談役でもあるのだ。そして昨日、お兄ちゃんはバレンタインをどうすればいいのか聞いてきた。そこで作ったのが、さっきの付箋でチェックしたチョコなのである。ものすごく大変だった。お兄ちゃん、器用そうで案外、不器用なんだもの。

「絶対、今日のこと鬼道に言うなよ」
「わかってますよう」

 そう、絶対にお兄ちゃんには言わない。そして不動さんにも言わない。お互いが影でこうやって相手のために何かしようとしていることは、私だけが知っている私だけの秘密の話。私は浮かんでくる笑みを隠しながら、今日も可愛いカップルにアドバイスをするのだ。







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