何が理由なんかなんて忘れてしまった。いつも通りの俺の皮肉った口調を受け流せなかった飛鷹も、いきなり胸倉を掴んできた飛鷹を適当にあしらうことができなかった俺も、ようするに疲れていたのだ。頭の中のリミッターが外れて、あとは殴り合い蹴り合い罵り合い。みんな遠巻きにどうやって止めようかおろおろしながら見ているし、染岡に至っては力ずくで止めようとしたものの、俺と飛鷹にてめぇは黙ってろと叫ばれると何だその態度はと怒りだし二次被害にまで発展しそうになった。風丸に止められていたが。
 口は俺の方が優秀だが、口で勝てないとわかっている飛鷹は力に訴えてくる。俺だって伊達に一時期路地裏で不良生活なんかしていないから、避けつつ反撃に応じてみたりもする。足だけは狙わないだけ俺たちはえらい。そんなところだけ冷静でも意味がないが。

「こらぁー!」

 それまでとは違うボリュームの声に二人して振り返れば、腰に手を当てた円堂が立っている。

「何やってるんだ二人とも!」
「どっからどう見ても喧嘩だろ」

 あぁ、開き直りって怖い。鬼道や風丸なんかはもうすでに呆れかえった目で俺たちを見ているし、豪炎寺は我関せずとばかりに虎丸と夕食を食っている。おろおろとする立向居は、円堂さぁん、と情けない声を出して、円堂は頷いた。

「うーん、どっちが悪いかわからないけど。でもみんなご飯食べてるときに喧嘩なんかしちゃだめだろ!」

 埃舞うだろ、と主張する円堂はやはり何かずれている。そのあと、サッカーボールを何処からか取り出してサッカーで話し合えと押しつけてくるのは円堂らしいと言えるが。このサッカー馬鹿が。
 そんな円堂に毒気を抜かれて、一気に疲れがぶり返す。ちらちらと飛鷹の方を見るとやはり飛鷹も気まずい雰囲気を出しながらこちらを見ていて、とりあえず飯でも食うか、と言えば、ん、と頷くから、結局始まりもいまいちはっきりしなかった喧嘩は終わりもいまいちぱっとしなかった。
 はいはい、ストーップ。席に座ろうとした俺たちを制止したのは救急箱を持った綱海だった。そういえば俺たちが喧嘩を始めた辺りでどっかに行ったと思っていたがどうやら派手に殴り合うことを見越して取りに行っていたらしい。

「足だけは殴ったりしかなったんだな。えらいえらい」
「なんかすげぇ馬鹿にされてる感じがする」

 二人揃って頭わしわしされると、こいつ絶対近所のチビとかと同じ扱いしてるだろ、って思う。普段はただの馬鹿だがこうされると一つ年上なのを今更ながら思い出した。俺に勉強教わるくらいの馬鹿だけど。

「喧嘩するのは別に悪いことじゃねぇけど。怪我なんかしたらどっちも嫌な思いするだろ。だからやっぱ喧嘩はあんましないほうがいいな。ま、なんかむしゃくしゃしたらサッカーとかサーフィンしようぜ」
「お前もあのサッカー馬鹿と同レベルだな」
「えー」

 切れた口の端に消毒薬が染みる。これ今日夕飯ちゃんと食えるんだろうか。見れば飛鷹も似たような状態で、よほど遠慮なく殴り合いしていたことを自覚する。飛鷹はなんとなく、ばつが悪そうな顔をして殴って悪かったとか素直に言うものだから、俺も、ん、と頷く。随分丸くなったものだと思う。また頭を撫でてくる綱海はすごくうざったいが。

「お詫びにトマトやるよ」
「嫌いなもの押しつけてくるな」









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -