世界の音が一瞬で消え去るという体験をそのとき確かに俺はしたのだと思う。誰も俺を責めないのだからそう考えるしかなかった。きっとみんなが俺を責めている。おまえのせいだと、おまえのせいで兄の足は死んでしまったのだと。けれどきっと俺は耳が壊れてしまったから聞こえないのだ。なんて役に立たない耳!
 代わりにじゃりじゃりという音が聞こえる。それは日々俺の脳の奥の方まで響いてよく頭痛の種にもなった。同時に、ぐ、と首が締まる心地がする。首に鎖がついている。じゃりじゃりと音が鳴って、引っ張られる。きっとこの先には罪とか罰とか、そういうものに繋がっているに違いないのに、いくら目を凝らしても欠片も見ることができない。首が締まるから懺悔の言葉は喉で止まってしまった。責める声も聞こえない。懺悔の声も届かない。首が締まるから身動きもできず、俺の耳も目も声も生きている足も、ただのゴミでしかなかった。

 いっそのこと切り落としてしまいたいと考えたのは一度や二度ではない。そうすればもう希望もないのだ。もしかしたら治るかもしれないという、そんな希望。いくら動かそうとしても感覚のない足は、同時に俺のある種の感情を麻痺させてしまったのだろう。希望を抱くくらいならば、抱かせるくらいならば、切り落としてしまいたい。
 京介が足を撫でる。その感覚はなくて、なんだかちょっと、おかしい。この足の感覚はどこへ飛んでしまったのだろうか。感情を道連れにして。それほど昔より俺は感情の起伏の幅というものがなくなったように感じる。別に京介を責めるつもりはなかった。自分の行動は間違っていなかった。自分がああしなければきっと京介は死んでいた。けれどそう言えば京介はつらそうにする。それだけはなんだかいやだなと感じた。
 感情が削ぎ落されてしまったのだ。きっと京介は責めてほしいと思うのだろうけれど、責めるほどの感情は自分のどこにもなかった。京介が無理やりつくった笑顔で笑うように、俺もそれよりうまく笑顔を作って京介に応える。自分はひどく無感動だ。
 京介はたまに、足が治りますようにと願いを込めて足を撫でた。その感覚はやはり感じられなかった。足など切り落としてしまいたかった。そうすれば京介ももう夢を見ることはないだろう。
 じゃりじゃりと音がする。俺の足には鎖がついている。それを試しに鳴らしてみれば、それは京介の首に繋がっていた。じゃりじゃり、じゃらじゃら。








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