不動は案外料理が上手い。本を見ないでも、今あるもので簡単にメニューが思いつくのか、その手が戸惑うことはないし、野菜の皮を剥くのも上手くて、かつらむきだってできる。いつもは大抵面倒臭がってやらないものの、俺とふたりきりのときは、不動はよく料理の腕を奮った。味は文句のつけようもないくらいに上手いし、成長期の中学生向けの量や栄養もきちんと考えられている料理は、不動が料理慣れしていることを思い知らされた。

「手伝おうか」
「いらねー」

 毎度毎度、進言してはすぐに断られる。確かに不動の手つきを見る限り、手伝えば却って足手まといになりかねない。皿を準備してもテーブルを拭いてもすぐに作業が終わってしまったので、手持無沙汰で台所に立っていたら、邪魔だと脛を蹴られてしまった。天気予報とニュースでも見てろよと追い出されたので、仕方がなくテレビの前で正座をする。明日の東京は快晴、洗濯ものの乾きやすい一日となるでしょう。明日は布団を干すことにしよう。

「今日のおかずは?」
「豚の角煮。昨日から準備してた」

 不動が作るのは大抵和食だ。たまに中華で、イタリアンはあまり見ない。家族の趣味なのだろうかと思ったけれど、それを聞いてみたことはなかった。

「今度、俺も何かつくろうか」
「お前作るのって大抵おにぎりとかカレーとかだろ。お前おにぎり握るのは上手いよな」

 やる気になればもう少しまともに料理が作れる。不動が言ってるのは大抵合宿中に作っているメニューばかりで、俺だって家では少しくらい家族の手伝いはするのだ。大抵は家に帰るとくたくたで、ご飯を食べて風呂入ってすぐに寝ることが多いけれど。そもそも不動が俺に包丁持たせてくれないのだ、どれだけ料理の腕があるか不動は知らないだろう。そりゃあ、不動の腕には敵わないだろうけれど。

「お前は包丁持つなよ」
「なんでだ」
「どんくせぇからすぐ指切りそうだ」

 おまえゴールキーパーだろ、その声に視線をご飯から不動に移せば、不動は豚の角煮を箸で突いていた。料理は上手いのに行儀が悪いのが不動の欠点だ。
 今のは俺のことを心配してくれたのだろうかと思ってみるものの、不動のことだ、追求すればまた癇癪をおこすに違いない。そう思いながら、顔が緩んでいたのか、にやにやすんなよこの野郎、と胡坐から崩した足の爪先でこちらを蹴ってくる。不動は本当に行儀が悪かった。








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