俺、南沢さんのことこの世で一番嫌いだったんですよね、なんて言ってみれば彼は澄ました顔で知ってたと返すものだから、ですよね、と吐き捨てて代わりに紙パックのオレンジジュースをストローで吸った。

「だってお前、すぐ態度に出るし」
「…………」
「俺みたいなやつ嫌いそうだし」
「…………」
「なのに何でなついちゃうかね」

 今日は部活は休みで、もちろんそんな日に部室に来る奴なんていなくてだから無駄に広い部室には俺と南沢さんの二人きりだ。もちろん俺たちも部活をしにきたわけじゃなくて、ただ近く迫る定期試験の勉強をするためだけにこの空調設備の整っている部室を使っているわけである。

「おまえさ、俺みたいなのになつくと、そのうち後悔することなるぜ」
「なんで」
「秘密」
「それじゃあ忠告の意味がないじゃないですか」
「後から悔やむから後悔っていうんだろ。俺はさ、お前の後悔した顔、真っ正面から見たいからな」
「あんた、性格悪いっすよね」

 南沢さんは器用にくるくるとペンを回す。このひとはこういうのばかり、得意だ。だけど、本人は結構曲がった性格をしていて不器用であることを、俺は知っている。
 
「後悔なんてしないですよ」
「……へぇ?」
「あんたととことん堕ちて見るのも楽しそうだし」

 きっとあんたはひとりじゃ寂しい。
 そう言ってやりたくもあったけれど、きっとこの人はまた本心を隠してさらにそれを皮肉で彩る歪んだ性格をしているから。
 南沢さんはふぅん、と楽しげに笑って、少しだけ、本当に少しだけ、目を少しだけ寂しげに細めて、それは目の前に俺がいたのにこのときももしかしたら孤独を抱えていたのだろうか、俺の言いたいことを見透かした上でそんな顔をして、けれど次の瞬間には全部また歪んだごちゃごちゃ面倒な仮面を被って、俺の頭をくしゃくしゃと撫で回した。

「きっとそれは嘘になるぜ」


 あんたと一緒に堕ちてみるのも悪くないと思ったんだ。あんたが抱えてる事情も孤独も重石にしたままけれど少しでもあんたが寂しくないように一緒にいてやるのも良いと思ったんだ。それはきっと嘘じゃなくて、あのときあのひとに言えた最大限の言葉だった。全部、全部、嘘じゃない。きっとあのひとがあのとき言ったことも嘘じゃない。だから、俺があのひとを好きになって後悔してしまったのもまた真実で、そこだけは少し、悲しかった。









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