「めんどくさいって、思ってるでしょう」

 ずびずびと鼻を啜る宮坂は確かにちょっとめんどくさいとは思ったが、流石にそんなことは言えずに、そんなことないさ、と苦笑してみせた。けれどそんな気持ちを見通しているのか、嘘だぁ、と宮坂はさらに目に涙を浮かべて、ぽろぽろと地面に涙で染みを作っていく。

「ほら」

 学生服でごしごしと涙やら鼻水やらを拭う宮坂が少し可哀そうになってきて、ポケットの中からポケットティッシュを差し出す。卒業する人間より、見送る人間の方が泣きやまない。慰めるのが卒業する自分になるだなんて、式が始まる前には想像もしてなかった。自分だって今も目は赤いが、宮坂の泣きようといったら、明日目が腫れることが容易に想像できるくらいだ。
 宮坂は受け取ったティッシュで、ちぃん、と鼻を噛んだ。それでもまだぐずぐずになったものだから、反対のポケットに入れていたもう一つのティッシュで、鼻の辺りを押し付けるようにして拭いた。されるがままになっている宮坂は、ぐぅと目を瞑ってそれに耐える。

「ほら、いい加減泣きやめよ」
「泣きやんだら、行っちゃうんでしょう」
「行かないさ」
「……うそ。だって、いっつもそう。いつだって、置いてかれるの、こっちなんだもの」

 ぐずぐずになってしまった宮坂を、どうやったら泣きやますことができるだろう。
 ボタンだって全部取られちゃうし、配られた花だって部の後輩にあげちゃうし、僕が貰ったのなんか、このティッシュだけじゃないですか。しかもぐしゃぐしゃにしちゃうし、ひどい、ひどい。
 ぐしゃぐしゃにしたのはお前だろ、とは言えずに、仕方がなしに何か記念にあげられるものがないか、探してみるが、そもそも卒業式には筆記用具くらいしか持ってきていない。荷物があるのは机の中身を今の今まで持ち帰りきれなかった円堂くらいのものだ。

「いつも、追いかけてくるって思ってるんでしょう」

 思ってないよ、と答えるのも、思ってるよ、と答えるのも、どっちにしろ酷い回答になる。宮坂が、意図せずそういう質問を繰り出すのが、一番、怖い。どちらにせよ傷つける返答しかできない質問を、どうにか回避できないものかと考えている自分が一番、酷い。

「風丸さんは酷いひとです。追いかけること、知ってるから、ずっと誤魔化して」

 ぽたぽたと落ちる涙を宮坂が止められないのは俺のせい。思い出だけ貰って綺麗に終わらせることができないのも、俺のせい。でも、こうすれば、おまえはきっと追いかけてくるという確信がある。だって、こんな宙ぶらりんな状態なまま、いられないって、そんな風に思うお前のことを一番よくわかってるのは俺なんだ。そして、俺がそう思っていることを誰より一番よくわかっているのも、宮坂だった。

「ひどいひと」
「ごめんな」












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