※源田が女の子で詰め合わせ



 太った。
 机に突っ伏して落ち込んでいるから、たまにはと思って聞いてみてやったら、返ってきた答えはそれだった。こいつは縦に伸びれば体重も増えるのだとわかっていないのだろうか。それに、馬鹿みたいにでかい胸の存在を忘れてやいないだろうか。身体測定の結果が書かれている紙を見て、なんだか自分まで落ち込んでくる。仮にも彼氏でありながら、身長も体重も、数字ではこいつの方が上なのだ。並ぶとはっきり差がでる。以前、源田のジャージを借りたときなんかは、ひとまわりはでかいサイズに軽く衝撃を受けた。そんなことなどきっと死んでもやらないと思うが、姫だっこだってできやしない。自分が潰れる。握力だって差がありすぎる。この体力馬鹿め、と頭をぽかりと叩いてやれば、少し涙目な源田が顔を上げた。源田は椅子に座っていて、俺は机に座っているから、久々に感じる自分が優位な身長差に、少しだけ満足感を覚え、そのちっぽけさに呆れる。
 どうせこいつの隣にいるのは俺なんだから、いくらこいつの方がでかくても太っていても気にすることないのにな。そんなこと絶対言わないけど。



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 源田は髪が伸びるのが早い。それはもう早い。しかも癖っ毛だし、手入れをしなければ酷いことになるので、たまぁに俺が切ってやる。しかし実のところ俺は髪の長いときの源田の方が好みだったりするので、切るたびにもったいない気にもなるのだ。
 ある日、突き指したと嘘を吐いて、シュシュを渡してみた。源田はなんで俺がこんなもんを持っているかについてはつっこまなかったが、その横顔がどこか残念そうに見えた。ひとつに髪を結んだ源田は、思っていた以上にくるものがあったから、冷たいと散々言われるその両手で剥き出しになった首元を触ってみたら、わぁと飛び上がった。
 それでも一週間もすれば、やっぱり源田は髪を切ってくれと鋏を持ってくる。少し残念ではあるが、言い訳も思い浮かばないので、しかたなく髪を切ってやる。器用ではあるが、所詮素人だ。仮にも女であるなら、素人床屋よりも、きちんとした美容院に行けばいいのに。

「いいんだ。不動に切ってもらうのが好きだから」

 その不意をついた一言に、顔に熱が集まっていく。ちくしょう、と切る前よりも剥き出しになった首に、触れてやれば、またしても源田は、わぁと飛び上がった。



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 不動が、自分より背を低いことを実はひっそりと気にしているから、一緒に出かける時にハイヒールは履かない。そもそも持ってもいない。いつも服はカジュアルに纏めて、スニーカーばかり履く。不動と出かけるときに履いているスニーカーはもうぼろぼろで、いくらおしゃれに興味がない自分でも、これは新しいものを買わなければなぁと思っているほどだった。
 デートと呼ぶのには味気のない(巡るのはスポーツ用品店がほとんどだったからだ)、それでも不動と一緒に出かけられる日はそれなりに楽しみだった。学生ということもあって、あまりお金はかけられないから、適当に、ああこの靴はいいな、このプロテインはあんまり美味しくない、とそんな話ばかりではあったけれど、まぁ、それに不満を抱いたこともないし、これからも抱くことはないだろう、と思う。手を繋いだこともないし、キスだってしたこともないし、あぁそういえばまともに好きだと言い合ったこともない気がするけれど、それでも自分たちは恋人同士だった。
 あまり良くない日だった。雨は降るし、カラスはやけに鳴くし、黒猫はどうどうと横切るし、終いにはスニーカーの靴紐が切れた。

「おいおい、大丈夫かよ」
「あぁ、でも古いし、新しい靴紐か、靴、買ったほうがいいかもしれないな」

 幸いにも今はショッピングモールの中だから、靴屋はある。背がでかいついでに靴のサイズまででかいものだから(さらに胸がでかいと不動がげらげら笑ったけれども)、靴のサイズを選ぶのに少し大変かもしれない。

「買ってやんよ」

 ぼそりと不動がそんなことを言ったので、びっくりして瞬きを何度もして不動を見る。なんだよ、と照れくさそうに目を逸らしたから、空耳ではないことは確かだった。
適当な靴屋に入って、適当に靴を見る。不動に買ってもらうのだから、あまり高いものにはできない。セールもあってか、それなりに安いスニーカーは何足かあって、あとはサイズを確認と、試しに幾つか履いている間に不動はいなくなっていた。

「履いてみろよ」

 帰ってきた不動は一足靴を持っていて、その靴の不釣り合い具合に、また何度も瞬きを繰り返す。不動が持ってきたのは、ヒールのついた靴だった。俺が買うんだから何でもいいだろ、不動はそう言って靴を履かせる。シンデレラもびっくりなくらい、サイズはぴったりだった(なにせこちらはなかなか靴のサイズが合うものが見つからないのだ)。それに感想を言う間もなく、はい決定と不動はさっさとレジに持っていって、会計をしてきて(値段は見えなかった)、また靴を履かせて、手を取って立たせた。不動にしては珍しいくらいに、普通にかっこよく見える。けれど、やっぱりヒールを履いているせいか、少し不動が見下ろせてしまった。

「こっちの方が背が高いのを気にしていると思ってた」
「はっきり言うなっつーの」

 でもお前、足長いし。俺のが背ぇちっちゃいからってスニーカーばっか履かせてるほうが恥ずかしいだろ。

「それに目立った方が良いオンナだって自慢できんだろ」

 それはなんとも恋人らしい宣言で、あぁ、俯いてもわかる、真っ赤になった耳さえなければ、本当にかっこよかった。
 それから慣れないヒールのある靴を履いて、靴擦れが酷くなったことは、不動には内緒にしておこう。









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