こいつはいつ俺のことを裏切るんだろう。告白されて受け入れたのはそれが見たかったからだ。潔癖で純粋な鬼道が俺を裏切るのを見たかった。そうなったら俺は心からこいつに笑いかけられる気がする。数年経てば次第に俺は焦れてきた。数年あれば交遊関係なんて変わる。そうすればきっとこいつはめんどくさい俺のことなんか簡単に切るだろう。人生における汚点。完璧といえる鬼道有人のたったひとつの傷に俺はなりたかった。そうなれたなら俺は満足していつ死んでも構わないのに。携帯や財布をこっそりと見た。浮気の証拠を探した。携帯には誰か女とメールしたやりとりが残っているはず。削除したらしい、それはどこにも見当たらない。財布の中にはラブホのポイントカードでも入っているのだろうと踏んで漁って見たが、あるのはふたりぶんの食料を買ったレシートばかりだ。あぁ、でもあった。何かよくわからないブランドの、高い買い物。これだ、これに違いない。鬼道の部屋をひっくり返した。もしかしたら自分用なのかもしれないが、見る限り鬼道は高そうな新品の何かを身に付けてはいなかった。だとしたらきっと浮気相手へのプレゼントだ。俺は焦っていた。はやく見つけなければ。鬼道の裏切りの証拠。俺に冷たい言葉を浴びせるきっかけになるその証拠を。はやく、はやく、俺を裏切ってくれよ。冷たく叩いて、お前なんかいらない、面倒なやつだった、少し情を出してやっただけだ、もう飽きた、さっさと出ていけ。そんな言葉を探していた。きっとあいつなら俺のことを酷く裏切ってくれる。精神を病んだ奴が癇癪を起こすように、事実そうなのだろう、小綺麗な部屋を漁りまくって、ようやくベッドの下からそれを見付けた。小さい紙袋に入った何か。びりびりに包装を破いて、中を見る。指輪だ。シルバーの、俺なんかじゃ価値が到底わからなそうなやつ。レシートを思い出す。あれにはいくつ0が並んでいたっけ。いつの間にかくすくす笑い出していた。このぐちゃぐちゃの部屋と包装を見れば、きっと鬼道は、気づくだろう。そして棄ててくれる。俺はやっと、一人になれる。きぃ、とドアが開く。どうやら鬼道が帰ってきたらしい。俺は鬼道に思い切り箱をぶつけた。それは顔に当たって、鬼道は顔をしかめる。俺は思い切り笑ってやった。心の底から、こんな楽しいことはないと、言い聞かせるように笑った。ほら、やっぱりこいつは裏切った。どんな綺麗事を言っても人間なんか簡単に相手を裏切る。そうやって、棄てる。なぁ、早く俺のことを罵倒してくれよ。逆ギレして、殴って、放り出してくれ。早く楽になりたい。そればかり考えている。鬼道は落ちたそれを拾って、床に座り込む俺のそばに来て、目線を合わせた。触れる手は優しすぎてぞわぞわと鳥肌が立つ。今更そんなことするのか。取り繕わなくていいんだ、早く認めろよ。裏切ったんだってさぁ。鬼道が箱を開ける。銀色に輝く指輪。そんなもん見せるなよ、と思っていたら、鬼道は俺の手を取って、それを嵌めた。冷たい。ぴったりと左手の薬指に嵌まる。

「俺はお前を裏切ったりしないから」

 嘘だ、そう言って俺はその手を振り払った。こんなので騙されるものか。きっと俺が最近怪しんでいることを知って、誤魔化すためにこんなのを買ったんだろう。お前が俺を裏切らないはずがない。だってあんなにも俺を恨んでいたくせに。復讐なら上出来すぎる。俺はいつまでこうしていればいい。信じて裏切られるのは怖いから、最初から裏切られるのを待った。綺麗な顔が歪むのを楽しみに待っていたのに、いつからかひたすら焦らされるようになった。早く、早く、俺を裏切ってくれよ、なぁ。早く、俺を棄ててくれ。もう待つのは疲れたんだ。
 抱きしめられて、息を吐いた。そういえば、俺がこいつに裏切られるのを待ち始めて、何年が経ったんだっけ。








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