源田は髪の毛を拭くのが下手だ。風呂上がりはいつものツンツン頭がどうなってるのかわからないが、ぺったんこになっていて、それを首に引っ掛けたタオルで、がしがしと乱暴に拭いている。髪の毛は落ちるし、ときどき犬みたいに思い切り頭を振るので、滴がそこらじゅうに飛ぶこともある。源田は髪の毛を拭くのが下手だ。だったらドライヤーでも使えばいいだろって話かもしれないが、源田という男はすこぶる電気製品と相性が悪いのだった。たぶん、頭の中が昭和なんだ。平成生まれのくせに。ときどき妙にじじむさいしな。不動、これはどうやって使えばいいんだ。ふどう、ふどー。やめろ、叩くなって、おまえのせいでテレビはリモコンが使えなくて、チャンネルを変えるのにわざわざテレビ本体まで行ってやんなきゃならねぇんだぞ! まぁそんなわけで馬鹿力に加えて単純に馬鹿な源田は電気製品と相性が悪い。携帯だってまともに使えないから、いつも携帯にアドレスを登録してやるのは俺の役目だ。おかげでついでとばかりに俺のアドレス帳にも名前がたくさん増えた。全然嬉しくねぇよ。
 話を戻そう。とにかく源田は髪の毛を拭くのが下手だ。だから、いつも、俺が拭いてやっている。そのままで歩くと滴がぼたぼたぼたぼた落ちるのが嫌なのだ。俺がベッドに座って、源田が床に座る。後ろから俺がタオルで拭いてやる。タオルはすぐに水を含んでぐちょぐちょになる。それからドライヤーで、俺にしては丁寧に髪の毛を乾かす。正面にある鏡を見れば、源田が眉間に皺を作って、ぎゅーっと目をつむっていて、面白くて正面から風を浴びせた。小さく悲鳴を上げた源田に、けらけらと笑った。
 冷えたバナナは一本しか冷蔵庫に残ってなかったので、仕方がないから半分こにしてやる。もちろん大きい方が俺だ。源田は文句を言わない。

「そういえば、果物は朝に取らないと駄目らしいな。朝は金、夜は鉛だそうだ」
「夜と朝の境目の場合ってどうなんだろうな」
「朝は活動するためのエネルギーになるが、夜は寝ている間に脂肪になるらしい」

 おまえはどこのおばちゃんだ。半分このバナナは当たり前だが小さくて少し物足りない。源田のやつ、切らすなって言ってるのに、すぐ忘れる。このへんには二十四時間営業なんて便利なスーパーなんざないのに。
 バナナの皮をゴミ箱に捨てた源田が隣に座る。その首根っこをひっつかんで、一緒にベッドに倒れ込んだ。

「おい、源田。おまえは太ってる俺と痩せてる俺、どっちがいい」
「……太ってる不動は想像できないな。でも不動は痩せているからもうちょっと脂肪は付けたほうがいいとは思う」
「んじゃあ運動したあと寝るぞ」

 ぐぅぐぅと物足りなさに鳴く腹を押さえて俺は源田に噛みついた。明日朝一番に源田に絶対バナナを買いに行かせてやる。あぁ、腹減った。








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