不動さんは駄目なひとだと思う。もう何もかも駄目。すぐに忘れものをするし、電話の最中に寝るし、待ち合わせには遅れてくるし。すぐに忘れものをするのは、わたしの物を当てにしているからしょうがないなぁって思うし、電話の最中に寝るのは練習に疲れてるんだなぁってわかる。けれど最後は納得いかない。そもそもデートだって、わたしが誘わなければそんなことにならないっていうのが、もう駄目。不動さんは乙女心というものを馬鹿にしすぎなのだ。かといって不動さんに完全に愛想尽かすことができないというのも確かに乙女心の延長なわけで、つまりわたしは不動さんのことが、なんとまぁ、好きなわけで。しかし、何度も待ち合わせに遅刻されたら溜まったものではないと、わたしは一つ悪戯することにした。至って簡単、わたしが遅刻するだけだ。しかしお兄ちゃんと同じく変に生真面目な性格なわたしは、律儀に待ち合わせの少し前には待ち合わせの場所へと向かっていた。こうなったらと、こっそりと影から待ち合わせ場所を観察することにした。わたしが待ち合わせ時間になっても来ないことにあたふたする姿を、携帯でムービーに撮ってやるのだ。それをみんなにばら撒いてやる。しかし自分でもあたふたする不動さんの姿なんて全く想像できない。どうせ自分は平気で遅れてくるくせに、わたしが遅れると文句を言うのだろうなぁ。さてさて、と影から待ち合わせ場所を見てみると、そこにはびっくり不動さんの姿があった。流石に何度も文句を言ったのが効いたのか、缶ジュースを飲みながらぽちぽちケータイを弄っている。不動さんにメールを送る友達っているんだろうか。悲しくなる想像だったので、そこでやめておく。それにしても、あたふたする姿が見たかったのに、なんてタイミングが悪いんだろう。いやいや、このままここに待機するのもありだろう。ちょっと早く来たくらいで、不動さんのあたふたする姿を見るという作戦を中止するのは癪すぎる。むぅ、と暫く時間まで不動さんを観察する。缶ジュースを飲み終わった不動さんは、それをぺしゃんこにして、それを蹴って器用にゴミ箱にシュートした。こういうところは素直にすごいって思う。それから、携帯を何度か開いたり閉じたりして、あともう少しで待ち合わせ時間だっていうときに、ふらりと待ち合わせ場所である公園を去ってしまった。あれ、と驚いたけれどそこで出て行ってしまっては見つかってしまうので、不動さんが完全に立ち去ったのを見て、公園へと向かった。やっぱり見渡しても不動さんはいなくて、もしかしてさっきのは自分の見間違いじゃないかって思ったけれど、あんな頭そういるわけがないし、ゴミ箱には不動さんが飲んだであろうぺしゃんこになったオレンジジュースの缶が入っていた。不動さんの奇妙な行動にさっぱりわけがわからなくなってしまった。そうだ、携帯。取り出して見てみると、時間はとうに待ち合わせ時間を過ぎている。不動さんに電話をかけてみたが繋がらない。そうだ、いつも待ち合わせ時間に遅れてくる不動さんには、電話をかけても繋がらないのだ。

「よ」

 背後から声を掛けられびっくりとして飛び上がれば、声をかけた不動さんはおかしそうにげらげら笑った。いつからわたしのことを見ていたんだろう。「律儀だなぁ、春奈チャンは」本来の待ち合わせ時間をきっちり三十分過ぎてから現れた不動さんに、何をどう文句を言えばいいのかわからない。もしかしたらこれまでも、こうして、待ち合わせ時間の前には来ていたのに、わたしが現れる寸前でどこかにふらりと移動していたのだろうか。でも、どうして。

「あれ、今日は怒んないわけ。いつもは待ち合わせ時間に遅れると、オトナシってのが名前負けするくらいに怒るくせに」

 それから不動さんは、怒るわたしの真似をして、それが自分でもそっくりだとわかって腹立たしくなり、ぽかぽか不動さんを叩く。もぅ、もぅ。それから堪らなくなって吹きだして笑ってしまった。

「不動さんの変態」
「なんでだよ」

 だって待ち合わせ時間に早く来てるのに、わたしに怒られたいから遅れてくるだなんて、変態じゃなかったら、ただの馬鹿じゃないか。

「不動さんの馬鹿」








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