ドモンはなんだかお父さんみたいだな。なんていったらドモンはなんだかすごく複雑そうな顔をした。俺、まだ、十四歳なんだけど。知ってる。でもドモンを見るとなんだかすごく、甘えたくなるんだ。そんなこと言えないけれど。そういうのは全部、みんなが作ったマーク・クルーガーの仮面が邪魔をするんだ。ディランやカズヤは、そんなことお構いなしにドモンに甘えまくるけど。ねぇねぇドモン、新しい必殺技考えたんだけど、ミーと一緒に練習しようよ! なんてね。カズヤなんかは、あれで朝がすごく弱いから、いつもTシャツとかドモンに用意してもらってる。あーあ、しょうがないなって顔して、ドモンは綺麗に畳まれたそれを取りだすんだ。俺だって、朝弱いけれど、ちゃんと昨日の夜に用意してるのに。なんだかすごく羨ましい。クールでカッコイイ(ディラン曰く)な俺は、その仮面を外すことが恥ずかしくて恥ずかしくて、できないのだ。今だってほら、ディランとカズヤはドモンに抱きついて、笑ってる。俺はちょっと離れたところから、じぃっと、ちょっと物欲しそうにそれを見ているんだ。いいなぁ、いいなぁ。そんなこと、マーク・クルーガーは絶対に言わないけれど。すると、ドモンがこっちを向いた。ディランとカズヤは気づいてないけれど、ドモンはこっちを向いて、ちょいちょいと、小さく手で招く。ちょっと物欲しそうにしていた俺の顔は、その瞬間晴れて、招かれるままにディランやカズヤと一緒に、ドモンの腰に抱きついた。やっぱりドモンはお父さんみたいだなって、俺は思う。

(マークと土門とディランと一之瀬)




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 とんとんと肩を叩く。最近すぐ肩が凝るとか言って、ボクに肩を叩かせる。これも特訓だー、とか何とか言っちゃって、そう言われればボクは溜息を吐きながら肩叩きするしかない。ちえ、なんだか損だなぁ。ねぇ、ダイスケ。本当はマモルに、こうやって肩、叩かれたかったんじゃないの、なぁんて言えるはずがない。予感がある。マモルはみんなボクから盗っていっちゃうんだ。ダイスケもナツミも。でも、ボクはそれを指を咥えて見ているしかない。だって、もともとはマモルのだったんだもの。やだやだ、やめてよ、いかないでよ、そうやって泣いて止めることは、きっとできないんだ。とんとんと肩を叩く。ボク、ダイスケの本物になりたかったよ。でも、不思議と、マモルにはなりたくないんだ。どうしてだろうね。ねぇ、ダイスケ、ボクがマモルの代わりじゃなくても、ボクのこと、好きでいてくれる?

(ロココと大介)



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 夢を見た。目の前に、笑っているのか泣いているのかよくわからない仮面を被っているひとがいた。夢の中なのに俺はすごく眠くて、あまりそのひとのことを認識できない。俺とそのひとは電車に乗っている。がたごとがたごと、電車は揺れている。おはよう、とそのひとが言ったから、誰だろうと思いながら、おはようと返した。あなたは誰ですかと聞いてみたら、きみの兄だよ、と言われた。兄、兄なんて俺にはいないよ。俺にいるのは、父さんと姉さんだけ。兄なんて、いない。それでもそのひとは、兄なんだよ、と少し悲しげに俯いた。仮面を被っているから、表情はわからないけれど。ぼくはヒロト。そのひとは名乗った。俺もヒロトだよ。あなたは誰。段々と怖くなってくるけれど、身体はまだ眠っているのか、動かない。ヒロトとヒロト。記憶の中でちらつく、一枚の写真。そうだ、あなたは。頑張って手を仮面に伸ばすけれど、そのひとは避けた。仮面の下が想像と同じなのか、確かめたかったのに、そのひとは首を振る。駄目だよ。これを外したら、もしかしたらぼくはこの仮面をきみにつけてしまうかもしれないよ。そうしたら、きみがヒロトになって、ぼくがヒロトになるかもしれない。そのひとが言うことはよくわからなかった。どっちがヒロトでも、ヒロトなら、いいんじゃないかなって思った。だって、俺だって代わりなんだもの。あなたがヒロトでも、俺がヒロトでも、どっちだって構わないよ。その人ひとは首を振る。仮面は揺れる。それでもぼくは、きみの兄になりたいんだよ。それに、あの子のことを姉さんなんて、ぼくは呼びたくはないからね。そのひとは笑う。そして俺は夢から覚める。無性に姉さんに会いたくなって、俺は部屋のドアをノックした。

(ヒロトとヒロト)



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 響木さんと旅行に出かけた。ボストンバックを二つ、それでも二人とも荷物が少ないから、きっと帰りにはみんなへのお土産でいっぱいになるのだろう。鈴目と唐須へのお土産はどうしようか。普段は仲が悪そうだが、あの二人はあの二人で、好みが被るのだ。喧嘩にならないように、同じものを買ってやった方がいいのかもしれない。一時間に一本しかないような電車を何本か乗り継いで、聞いたこともないような終点駅で降りる。泊った旅館は、古びてはいたけれど、古いのは嫌いじゃない。むしろ、新しいホテルなんかよりは、居心地が良い。外からは蜩の鳴く声がして、季節を感じさせた。移動中も旅館に着いてからも、俺と響木さんの間に会話はない。もともと二人とも、口数が多く無い方なのだ。旅館の料理が出て、美味しいかと一度聞かれた。はい、美味しいです。けれど、響木さんの作るラーメンの方が、ずっとずっと、好きだった。俺のためだけに作ってくれる、ラーメン。帰ったら、また食べに行こう。帰りの駅で、趣味が良いのか悪いのかわからない御当地キーホルダーを見つけた。鈴目や唐須は結構こういうのが好きだから、これがお土産で良いだろう。それを二つ取ったら、響木さんに、自分の分はいいのかと聞かれた。俺はあまり手持ちが無かったし、他のみんなへのお土産でいっぱいいっぱいだったから、良いですと返した。暫く待って電車に乗り込んで、疲れた俺はそのまま寝てしまったらしい。気がついたときにはもう乗換のときで、慌てて荷物を持って移動した。それを何度か繰り返して、稲妻町へ帰ってくる。楽しかったです。そう言って頭を下げれば、頭を撫でられた。響木さんに頭を撫でられるのは初めてだ。孫が出来たみたいだった。そんなことを言われて、嬉しくなるけれど、顔には出さない。けれど、きっと、わかってる。家に帰って荷物を開けてみれば、見覚えのない小さな袋が入っていた。首を傾げて開いてみれば、木彫りの動物のキーホルダーが入っていた。誰が入れたのかすぐ想像がついて、嬉しくなって、すぐに家の鍵につける。宝物にしよう。握りしめたまま布団の中に入れば、すぐに夢の中へと落ちて行った。

(飛鷹と響木監督)



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 三人一緒に大きな布団の中で、ひそひそ内緒話をする。夜の内緒話って、なんでこんなに楽しいんだろう。電気を消して、明かりなんてなくて、頼りになるのはお互いの気配だけだ。俺たち三人は、キングサイズのベッドを三人で使ってる。キングサイズだから、こどもの俺たちにはまだまだ余裕があるけれど、身を縮ませて、声を潜める。ベッドに持ち込んだ小さなライトを光らせて、笑える要素なんてないのに、三人してくすくす笑った。コインとお札を取り出して、それをデモーニオが数える。お店の人みたいな数え方ができないから、一枚一枚、寄せて数える方法しかできない。でもそっちの方が、三人とも枚数がわかるから、きっと良いんだ。ねぇ、お金が溜まったら何を買おうか、そうルシェが笑った。貰えるお小遣いを貯めてみたはいいものの、何を買うかっていう問題は、まだ解決していない。サッカーボールがいいな、そう提案したのはルシェ。新しいサングラスが良い、そう提案したのはデモーニオ。ねぇねぇ、フィディオは、ルシェが言いながら服の袖を引っ張ってくる。うーん、何がいいだろう。何を送ったら、あのひとは喜んでくれるかな。ルシェが言うようにサッカーボールは素敵だ。でもデモーニオが言うサングラスも、ずっと身に着けてもらえる。キドウやフドウなんかが思いつかないような素敵なプレゼントって、なんだろう。頭の良い二人を出し抜いて、内緒の計画を立てることは、とても楽しかった。町に行ってはお手伝いを申し出て、ちょっとのお小遣いを貰う。それをあのひとがくれたお菓子の缶に貯めて貯めて、少しずつ重くなっていくそれに、どきどきする気持ちが抑えきれない。まだだ、まだ、足りない。あのひとが喜んでくれるプレゼントを買うには、まだちょっと、足りないよ。コンコン、とノックの音がする。いけない、ちょっと大きな声で話過ぎたかも。もう夜は遅いから、早く寝なさい。ドア越し布団越しに聞こえる低い声。ぷは、と布団から三人で顔を出して、はぁい、と良い子の見本な返事をする。ドアの前の気配は、それからカツカツと遠ざかって行った。いけないいけない、キドウやフドウもだけど、あのひとには一番、内緒にしなくちゃいけないんだ。俺たちは顔を見合わせ、唇に人差し指を当てる。それでも最初にルシェが笑って、デモーニオが笑って、堪え切れなくて、俺も笑う。また布団に潜って、笑いながらお金をお菓子の缶に戻して、ライトを消す。あと少し、あと少しで、きっとあのひとの笑う顔が見れるよ。

(フィディオとデモーニオとルシェと、あのひと)








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