オンナノコとは「優しく」「包容力」のある子のことをいうのだとボクは思う。ボクの初恋はもう何年も何年も前、泣き虫ロココとからかわれるたびに慰めてくれた村の子。ボクよりちょっぴりお姉さんで、まぁたまにはもっとちゃんとやらなきゃ駄目よ、なぁんて叱咤してくれる、そんな彼女にボクが恋心を抱いてもおかしくない。むしろ当然だ。だってオトコノコって、総じて単純であるべきなんだもの。うん、そうさ。ボクはウィンディに唆されて(応援されて、じゃない。だってあいつ、ボクが振られる方にこっそり賭けてたんだ!)、彼女に告白した。そうしたら、彼女の返事はなんだったと思う? ごめんなさいロココ、わたし、あなたのこと、可愛い弟程度にしか思えないの、だってさ! それをいわれたら、ボクだって、優しいお姉さんが好きな気持ちに毛が生えた程度のことを、恋心だと定義していたわけだから、それから口説き落とすなんていう気持ちなんて流石に湧いてこなくて、その夜はケーンに慰められて、ボクは泣き虫ロココになった。最初は笑っていたウィンディも流石に気の毒になったのか、賭けで貰ったお菓子をちょっとだけ分けてくれた。ボクはそれを全部没収してケーンとふたりで分けた(ケーンはボクが成功する方に賭けていてくれたからね、いい奴だ)。まぁ、これがボクの初恋。甘酸っぱぁい、誰もが経験する初恋。
 ナツミがマネージャーとしてチームに入ってくれたとき、誰もが歓喜した。当然だ。だって、ボクらのチームにはマネージャーはいなかったし(世界代表なのにね!)、それにやっぱり年頃のオトコノコなのだから、オンナノコと関われるのは嬉しいものなのだ。ナツミはそこらのオンナノコと比べ物にならないくらい美人だ。まつ毛だって長いし、長い茶色の髪の毛はショーウィンドウに飾れられているお人形みたいだ。ボクたちは美人なナツミと知り合えたことを喜んだ。どこからか連れてきたダイスケの肩でも揉んであげようって思ったくらいだ。まぁ、みんなその気持ちをすぐに撤回するわけだけど。ナツミはうるさかった。それはもう、うるさかった。こら、服は脱ぎっぱなしにしないで! もっとお行儀よく食べなさいってば! お菓子は禁止、太るでしょ! まぁ、そんな感じかな。あと料理が酷かった。味は悪くはない、と思えるくらい(つまり美味しいよ! なんて笑っていえずに、三口くらい租借して、ようやく悪くないよって言えるくらい)だったけど、見た目が酷かった。形は崩れてるし、焦げだらけだし、本人は本を読んで勉強してるんだけど、どうにも上手くいかなかった。これだったらボクの方が上手くつくれるよ、なんて言ったら叩かれたから、もう二度と言わないけれど。
 もともと個性の強いコトアール代表だ。ナツミはそれに翻弄されて、怒鳴って、目が回る忙しさのようだった。やがてボクらは彼女に尻に敷かれ始め、それにちょっぴり理不尽さを感じたものだけど、それでもオンナノコと一緒だっていうことはなんだか変わった空気をチームにもたらして、少し楽しかった。ボクのナツミに対する認識というのは、単純にいえば和気あいあいとしたチームにおける、ちょっとしたスパイス、だった。試合に勝って褒められるのは気分が良かったし、彼女の視線を気にしてちょっとだけチームが引き締まる。ナツミの存在は今やチームに不可欠なものとなっていたから、チームメイトという意識が強かった。ナツミがオンナノコだということを、ボクはすっかり忘れていたのだ。
 ウィンディの悪戯のせいで、頭から水をひっ被ることになってしまった。水を撒いていたら、色々と調子に乗って水の掛け合いが始まり、それがヒートアップしてしまった。中学生だから、こんなこともある。だけどボクは頭から足まで水でぐっちょりで、流石にそのままにしては風邪をひくから、シャワーを浴びるために合宿所へと戻る羽目になった。合宿所は新しくて、大浴場もある。そこで遊んで転んでは、ナツミに怒られた。そんなことを思い出しながらボクはタオルと着替えを持って、浴場へと急ぐ。ボクはすっかりと忘れてしまっていたのだ。浴場は男女兼用なこと。ボクたちが浴場で遊びまくるから、ナツミが入浴時間をずらしていること。それをすっかり忘れていたから、ノックもしないで脱衣室へと入ってしまった。
 白い背中だった。でもちょっぴり日焼けしてて、腕の先と背中では色が違っていた(そこまで見るつもりはなかったよ、本当に!)。ナツミは今まさしく服を脱いでいるところで、ボクにとって幸いだったのは、途中だったからナツミの顔が服の中に入っていたことだ。声にならない悲鳴をあげて、タオルやら着替えやらを落としそうになりながら、急いで扉を閉める。そのまま、合宿所裏までダッシュした。試合でもこんなに早く走ったことはないかもしれない。なんだかよくわからない感情がぼくの中で渦巻いて、それが走る原動力になる。あぁ、なんで今日はこんなに暑いんだろ! さっきは一気に汗がひいたのに、今は身体中が熱い、熱い! もう耳なんか、まともに感覚もありゃしない!
 ボクはすっかり忘れていた。ナツミはオンナノコなのだ。女の子、なのだ。ボクは男の子で、ナツミは女の子。こんなに、違う。男の子と女の子の違いなんて、ボクはたぶんいままでほとんど意識なんてしたことがない。なのに、ボクはこのときナツミが女の子であると、強く意識してしまったのだ。あぁ、どうしよう、覗いてしまっていたのがばれてしまったら。怒られるのかなぁ。あぁ、でもそっちの方がいい。軽蔑しきった目を向けられたらどうしよう。そんなの嫌だ。嫌過ぎる。何故? チームメイトだから? 違う、違うんだ、ボクは。嫌われたくない。嫌だ。何故って、決まってるじゃないか。ボクはナツミが好きだからだ。男の子のボクは、女の子のナツミに、恋をしてしまったんだ。
 合宿所の裏で蹲る。ボクの顔は誰が見ても真っ赤に違いなかった。現に、ボクを心配して見に来てくれたゴーシュが、風邪かって聞いたくらいだ。そんなんじゃないよ、ゴーシュ。あぁ、でも、この熱さを治してくれるならどんな苦い薬でも、飲んでみせるよ。








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