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▽ 〜7/18


中々寝付けない夜に、ふと夜空を見たくなって部屋を出ると、甲板には先客がいた。

「ペンギン」
「お。なんだ、眠れないのか」
「うん。ペンギンは?」
「おれは超眠い」
「もしかして海図描いてたの?」
「いや、航海記録」
「お疲れさん」

くぁ、と大きな欠伸をするペンギンの横に座る。
いつも深夜までペンギンが起きているのは知っていた。労わりの言葉をかけると、「じゃあ睡眠時間をくれ」と返してきた。
あげれるものならあげてやりたい。

「超眠いー。でもまだ残ってるんだ……。実はさっき一瞬寝落ちしてさ、やべーと思って気分転換に外出てきたんだ」
「ちょっと寝ちゃえばいいのに」
「ばーか、んなことしたら船が将来沈むぞ」
「ういっす。感謝してまーす」
「お前は?」
「眠れないから、気分転換に出てきた」
「羨ましい……。」
「へへ、ごめんねー」

その分、昼間の掃除や仕事分担はわたしやシャチの方が多いのだが、そんなことは分かって言ってみたのだろう。

「やっぱ故郷の方が空、綺麗だったね」

しん、とした空間に少し戸惑って、ぽろっと言葉が溢れた。
昼間はぎゃーぎゃー騒がしくて、大体はみんな笑っているから、こう、普段見せないような静かな微笑みを浮かべるペンギンに焦ったのだ。
それは、いつかも言った台詞だった。

「そうだなー」
「って、前もこんな話、したね」
「あん時は宴だったから、こんな静かじゃなかったけどな」
「確かシャチが流星見つけたんだっけ」
「そうそう、そんでベポがメス熊が欲しい〜とかお願いしだして」
「ああ、でも結局シャチの見た一個しか、流れなかったんだよねー」
「大分酔ってたから、みんな割とすぐに寝落ちしたんだよな」
「そうだった、そうだった」

クスクスと二人で笑い合うが、やはりいつもの雰囲気とは違く、少しだけ気分が高揚した。頭はクリアなのに。

「故郷のみんな、何してるかなあ」
「どうだろうなー。おれたちの手配書見て、『馬鹿だなあ、こいつら』って笑って酒でも飲んでるかもな」
「そうだねー。ロマン追いかけてここまで来ちゃったもんね」
「お前は後悔してないか?」
「たまにする」
「そうか」
「なんでこんなむさいところで華の青春費やしてんの、本当何やってんだ、って思う」

上陸した街で夫婦とか恋人見かけると、ああ、幸せそうだなあ。と羨んでしまうのだ。特に海軍に追われている真っ最中だったらそう思うのも仕方ない。
好きな男の子供を産むのが女の幸せだと、いつか読んだ本に書いてあったのを強く覚えている。わたしには縁のない幸せだ、と分かったからだ。
しかし勿論、そんな後悔もしょっちゅうするわけじゃないけど。

「はは、海賊しながら子育ては面倒そうだもんな」
「うん。恋愛もしてる暇あれば強くなれー、だもんね。……でもね、」
「うん?」
「もしわたしがペンギンたちと一緒に島を出ないで、普通に恋人作って、普通に結婚して、普通にペンギンたちを酒の肴にしたりして、そのまま普通に死んでいったら、きっと死ぬとき後悔したよ。それも、ペンギンたちんとこに化けて出るくらいの後悔」
「へえ」
「実は、ついて行くって決めた時、わたしめっちゃくちゃ悩んだんだよ。死ぬリスクとか、苦しむリスクとか」
「その割には、お前結構早くに決断したよな」
「だって、みんなのこと好きだから」
「……おお。照れる」

茶化さないで、とペンギンを睨むが、にやにやとした顔を返してくるだけだった。
あー、何を言ってんだろうな、わたし。これが、俗に言う深夜テンション。恐るべし。
続けろよ、と急かすペンギンを肘で小突いた。

「ていうかついていかないって選択はやっぱり何回考えても選ばなかったと思う」
「潔いいな」
「でしょ?好きな人たちと一緒に居れなかったって選択をしたほうが、絶対後悔したと思うの。たまにため息と一緒に溢れちゃう後悔なんか、比じゃないくらいに」
「そうかー。……ま、でも、やっぱりお前はどんな選択をしててもここにいたよ」
「なんで?」
「なんでってそりゃ、お前が行きたくないっつってもおれたちが連れて来ちゃっただろうからな」
「えぇー、悪逆〜」
「海賊ですから!」
「あははっ。そうか!奪ってなんぼか!」
「お前も満更でもなかったりしてな」
「うん。きっとそうだわ。内心絶対嬉しいわ。……これからもよろくね、ペンギン」
「ん、こちらこそな」

二人でコツンと拳を合わせて笑いあった深夜2時。
明日は間違いなく寝坊するだろう。

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