勘ちゃんは、ある日空から降ってきた不思議な女の子に夢中だ。 けーたいやぱそこんや、まんがやげーむ? などというものに囲まれた世界から来たというその子は、私達が当たり前に見ているもの、使っているものに、一つ一つ、驚き、感嘆の声をあげ、興味を示した。そんな新鮮な反応と、自身の取っつきやすい性格のおかげで、彼女の周りはいつも賑やかだった。 勘ちゃんはそんな群衆の一人から、もっと彼女との距離を縮めたいのだと言う。
「でもさー」
私がこれから繰り広げるのは、女の醜い嫉妬ではなく、正論であることをここに誓おう。
「あの子、いつか自分の世界に帰るんでしょう? そのために、みんなでその方法を探してるんだし。勘ちゃんはどうするの? 自分のために、あの子をこの世界に留める? それとも一緒に、何も知らない、多分こことは全然違う世界に行っちゃう?」
心の中で『ざまぁみろ』と汚い声が響く。煩い黙れ。これは的確な指摘であって、個人的感情などではない。断じてない。
「どっちにしたって、何かしらの犠牲は払わないといけないよね。勘ちゃん、その覚悟あるの?」
そしてトドメ。
「――まぁ、両思いだったらの話だけどね」
女の嫉妬は醜い。とても醜い。妬み嫉み恨み……そんな負の感情が、私の口をなめらかに滑らせた。 けれども、鋭利な刃物のような言葉を受けても、勘ちゃんは傷ついた様子もなく不思議そうに首を傾げた。
「ねぇ、名前。すっごく気になるんだけどさ」 「なに?」
勘ちゃんがあまりに普通なので、私は少し腹が立った。あの子の言葉しか、勘ちゃんの心を揺さぶらないのだ。私の声なんて、虫の羽音や木々のせせらぎみたいなものなのだろう。 貴方の心を動かしたい。強く、強く。
「同じ世界の人同士だったら、何も犠牲を払わないで、幸せでいられるのかなぁ?」 「そりゃ、違うよりは同じほうが、安全なんじゃない?」 「そっか。そうだよなぁ」
あの子が来てから、勘ちゃんは時々腑抜けた声を出すようになった。頭の中の桃色が滲み出したような、阿呆丸出しの情けない声。「あおーん」という盛りの猫の鳴き声にも似た、嫌な声。 私の好きだった勘ちゃんが、あの子のものにならない勘ちゃんに変わってしまう! 爪先から頭のてっぺんまであふれ出る嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬! 嫉妬が女の特権だというのならば、きっとこの醜悪な感情は子宮から作られているに違いない。
「でも、好きなものは好きだよ、やっぱり」
ほうら、やっぱり。いつもいつも空が落ちてきたかのような深刻そうな顔で私の元へやってきて、心配事や不安や悩みを吐き出すだけ吐き出して、私は勘ちゃんに気持ちを悟られないように最大限の注意を払いつつ、二人がくっつかないように、更に勘ちゃんがあの子を諦めるように言葉を選ぶのだけれど、いつだって着地点はここだ。 悩むことさえ、甘い疼きを伴う。 それが恋だと、彼も、私も知っている。 矢印が互いを向き合えばこれほど収まりが良いことはないのに、世の中はそんな均衡すら保ってくれない。 あの子の矢印がもしかしたら自分に向くんじゃないか。未知の可能性に賭けて、私達は今日も今日とて顔を付き合わせるのだ。
チャイナアドバイス
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