(やんだ…)


 いつのまにか雨があがっていた。
 
 傘を畳みながら空を見上げると、それは君の傘を同じ色で。
 
 なんだかとても嬉しくて。

 君も見ていたらいいなぁ、って。











水色ガールフレンド













 それは昨日のこと。



(雨っ…)


 天気予報では快晴って言ってたのに。


(傘、どうしよう…)


 もちろん持ってきてない。
 でもグランドまでだし、練習前には着替えるし。


(ダッシュすれば…!)

「だめーーーーーーーーーー!」


 踏み出しかけた俺の背中に飛んできた、声。

 びっくりして、コケる。


「三橋君?!」


 慌てて駆け寄ってきたのは、マネージャーの苗字さん。
 大丈夫?と言いながら俺を起こしてくれる。


「今雨ん中走って行こうとしたでしょ? だめだよ、風邪でもひいたらどうすんの?
阿部君に怒られるよ!」

「阿部君に怒られる……!」


 俺は思わずぶんぶんと首を振る。

 阿部君は、怒ると怖い。


「そ、それは…やだっ」

「でしょ?」


 苗字さんはにっこり笑って、水色の傘を見せた。


「はい、入れてってあげる」











 傘忘れてよかったなんて言ったら、


 苗字さん、怒るかな……?










「三橋君それじゃ濡れちゃうよ。こっち来なって」

「ぅわっ」


 カバンを引っ張られて、苗字さんとの距離が近くなる。
 と、時々腕とか当たって、頭ん中沸騰しそう。


「そっか…私が持つと濡れちゃうか……三橋君、傘持ってくれる?」

「う、うん」


 言われるがまま傘を受け取ると、まだ柄に苗字さんの体温が残っていた。

 心臓が、ばくばくする。


「三月の風と四月のにわか雨とが五月の花をもたらす、か」

「え…?」


 雨音に掻き消されて、よく聞き取れなかった。


「三月の風と四月のにわか雨とが五月の花をもたらす、ってこの間読んだ本に書いてあったなぁと思って」


 「よくわかんないけど、格好良くない?」と苗字さんははにかんだ。
 
 ちょっと赤くなったほっぺたが手を伸ばせば届きそうなところにあって、どきんとなる。

 わ、ど、どうしよう。


「三橋君?」


 きょろきょろしだした俺を、苗字さんが心配そうに見る。

 その顔がまた近い。


「うぁっ……うっ…」


 水色の傘の下で、俺は真っ赤だった。


「三橋君、ちょっとしゃがんでみて」

「え?」

「しゃがんでみて」

「は、はい!」


 よくわからないまま、苗字さんの目線に合わせてしゃがむ。

 すると。


「う〜ん…熱はないみたいだけど…」


 苗字さんのおでこが、

 俺のおでこにくっ付いた!


「$#〇☆◆※〜〜〜〜?!」


 そ、そんなことされたらどんなに元気でも熱上がっちゃうよ……!


「三橋君、熱いとか寒いとかない?顔真っ赤だよ?」

「だっ、い、じょう、ぶっ…」

「そうかなぁ…ほっぺた熱いけど」


 おでこをくっ付けたまま、苗字さんは両手で俺のほっぺたを包んだ。

 手、冷たくてびくっとなる。


「私、手冷たいでしょ? いつもこうなんだ」


 えっと。
 こんな時は…言わなきゃいけないことがあった、はず。


「手、が冷たい人はっ心があったかいん、だよ」


 い、言えた!


「あはは、三橋君いいこと言うね!」










 楽しい時間はあっという間に終わってしまう。










「今度は忘れちゃだめだよ」


 水色の傘を畳んで背を向ける苗字さんを、


「苗字、さんっ」


 俺は勇気を出して呼び止めた。


「どーしたの?」

「あの、か、か、傘……」


 ありがとう。

 そう言うと、苗字さんは「どういたしまして」ととびきりの笑顔を返してくれた。


「私が傘忘れた時には入れてね、約束だよ」

「うん」










 俺はちょっとだけ、毎日雨が降ればいいなって思った。

 












(雨、雨、雨、雨、雨!)


 その晩三橋は、千羽鶴ならぬ千匹てるてる坊主を、逆さに吊るしたとか吊るしてないとか。



























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