「はない、だいすきっ」





 あらあらまぁまぁ男子が男子に抱きついてるよ一部のお嬢様方が見たら涎垂らして喜んじゃうよ。
 でも私はまだそっちの道には踏み入れてないし踏み入れる予定もないし、第一抱きつかれてる奴が悪い。

 抱きついているのは田島 悠一郎。
 抱きつかれているのは花井 梓。世間一般で言うとこの私の彼氏。

 キャプだし頭良いし頭の形も良いし優しいしヘタレだし部屋片付けてくれるし宿題手伝ってくれるし便利な、じゃない自慢の彼氏。

 当然、野球部のメンバーからも好かれるワケで。いや彼氏が皆に信頼されてるってのはとても喜ばしいことなんだけど。





「た、田島―!」

「なんだよいいだろー」

「どさくさに紛れてどこ触ってんだよ」





 本当にどこ触ってんだよまだあたしが触ってないとこだったらどうすんのちょっと花井の処女返してよ花井はあたしの彼氏なんだからバカ田島!(なんか花井は童貞より処女のほうがしっくりする気がする。押し倒されるより押し倒したいし…はっ、あたし腐ってる?!)

 なんてこと口が裂けても言えるわけがなく。
 まんざらでもなさそうな花井をぶすーっとしながら見てるしかできなかった。









「だろ?で、ここが主語で…」

 テスト前、
 二人っきりで
 勉強会。

 キ、キターーーーーーーーーーーー!

 これぞ彼氏彼女恋人同士高校生の健全爽やかお付き合いって感じじゃない?!
 だって花井いつも部活で忙しいから一緒に帰るとかお昼食べるとこくらいしかデートっていうか二人の時間がなくて、もしかしてこんなイベントちっくなもんって初めてかもしれない。

 思わずわかりきった問題とかまで無駄に花井に聞いてみたりもっと話してたいから「よくわかんない。もう少し説明して」と言ってみたり(花井はあたしの思惑なんて知る由もなく真剣に解説してくれる。ほんっと真面目だよなぁコイツ)、説明なんて右から左でこっそり花井の横顔に見入ってみたり。

 ああ幸せだなぁとかしみじみ思う。

「…ってわけ。わかった?」

「うん」


 君の鼻筋が通ってて睫毛長いことがよ〜くわかった。


「名前は理解早くて助かるよ」


 そんなフツーに嬉しそうにされると全然聞いてないのが申し訳なってくるんですけど。
 そもそも今何の教科勉強してるんだっけ…?
 うう聞いてないのバレたら怒られるよな誤魔化さなきゃ。
 

 なんか言おう、なんか。


「あたしのこともっとバカだと思ってたわけ?」


 あれーこの口はなにを言ってるのかなー???


「誉めてるんだろ」

「そりゃどーも」


 この口かこんな小憎たらしいことを言うのかこの口か!
 ほら花井困ってんじゃん何でもないような顔して実は『あーさっきのはヤバかったよなー』とか気にしてんだよ!


「ったく田島なんてひどいんだぜ。勉強ウンヌンの前に、30分じっと座らせるとこから始めねーと」


 あたしが自分の口の悪さとか意地っ張りとか天邪鬼とかを呪ってるっていうのに。
 コヤツ今、『田島』とかぬかしやがりませんでしたか?


「あいつ記憶力は自体は悪くないんだけど……野球に関係ないと全然なんだよな………って名前?なに怒ってるんだよ?」


 あははやだな花井君ってば何言っちゃってるのかしら。


「……別に」


 ほ〜らあたしこんなにゴキゲン♪


「トイレ行ってくる」










 なんだよなんだよなんだよなんだよ!
 田島がそんなに可愛いなら田島と勉強すればよかったじゃん彼女だからって無理してあたしといることなんてない田島だって花井といたらあんなに楽しそうだもん二人でいちゃいちゃしてればいーじゃんなんだよなんだよ花井のバカ田島のバカ!
 そりゃ口開きゃ毒しか吐かないヒネクレ属性:名前より、素直に「すきっ」って言っちゃう動物属性:田島のほうが可愛いに決まってるそれくらいあたしだってわかってる。それともなにかあたしってそんな放っておけないような駄目人間なのか? あたしは花井なんかいなくてもやってける思い上がんな!



 別れてやる別れてやるぜーったい別れてやる!



 一大決心をしたあたしがトイレから戻ってくると、花井は英語の長文とにらめっこしていた。
 
男子っていうのはそーゆーもんなのかもしれないけど、花井は細っこいくせに背中広くて、不覚にもドキッとした。あたし背中萌えなのか? つかその微妙な萌えポイントはどうなんだ同志はいるのか?


「名前っ?!」


 後ろから抱きつくと花井はどこから出してんだって声を上げた。
 

「はない、だいすき」


 『だいすきっ』の『っ』がうまく言えない。しかも声低いし。これじゃあ地獄の底から生還したゾンビだ。
 田島のやつ、なんであんな素でこんな愛想振りまけるんだ?!


「な、なにしてんだよ……?」


 そりゃ戸惑うわな、こんなの普段のあたしじゃ絶対あり得ない。







「 た じ ま ご っ こ 」





 あれ。

 もしかして私、

 嫉妬とか、してたりする?





 すると花井は「ふー」と呆れたようにため息をついて、あたしの頭をくしゃくしゃってした。

 でもって少し赤い顔で。





「名前は名前、だって」

「……」


 うぉヤバ今ハァトがきゅんってしましたきゅんって。


「はない、だいすきっ。ゲンミツに」



 「バーカ」と花井に小突かれる。





 田島 悠一郎様。

 花井 梓は私のもんです絶対渡さないので覚悟しといてください。




 




 




「ってお前どこ触ってんだよ?!」

「たじまごっこだからいーの!」

「のわっ! こ、こらっ…」

「ほうほうオトコノコはこんな風に……」

「やーーめーーろーーー!!」





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