天使パロ
某マンガの設定をだいぶ借りてます







どこもかしこも、白い白い世界。太陽でさえ、白く感じる、真昼。
なにがいけなかったのだろう。どこで間違えたのだろう。

おれたちは、ただ、一緒にいたかっただけなのに。





真っ白な壁に囲まれた小さな中庭で、ローは空を見上げていた。
青く広がる空に、希望はない。
だってここは天界、至高の場所だ。空に祈りを捧げたところで、そこにはなにもないことを天使達は知っている。
ローは腕の中でぐったりとしているキッドの顔に汗で張り付いた前髪を払ってやる。
天使にふさわしい、彫刻のように美しい顔は、羽根をもがれた苦しみに歪んでいた。


天使が住む世界に愛がないなんて、誰が考えられるだろう。
無機質で、機械的にしか動かない、愛のない世界が天国だ。
だが、上級天使として生まれたロー自身とて特に疑問も持たず生きてきた。もともと他人への関心が薄く他人がどうなろうと気にしないが、代わりにあまり小さなことにこだわりもしなかった。"隣人愛"というものすら、彼は持ち合わせていなかった。

キッドと出会うまでは。


生まれてくる世界を間違えたんだと、キッドはよく言っていた。
天使は恋愛を禁止されている。愛の末には子供が生まれるからだ。天使は皆、神の子である。そして、神は神以外の子を許さない。だから天使同士の子供が出来るのを阻止するため恋愛を禁止し、子供を作ったものたちは処刑される。
天使同士の禁忌の子供達はみな赤い目を持っていた。


キッドは下層階級が住む見捨てられたような地区の、さらに地下でひっそりと生きていたが、ある日仕事で偵察に来ていたローと出会う。
初めて間近で見る上級天使の姿に、キッドは不覚にも見とれた。
純白の美しい羽と深い藍色の瞳。全身から放たれる輝くオーラ。

その汚れなき完全な美しさを、憎んでいたはずなのに。


捕まるかも知れない身の危険など忘れ見つめていると、

「お前の目…」

ローが呟いた。
ローはこれまで幾度も赤目の天使を見てきた。生まれる前から存在を否定されている赤目の天使達は、一様にその瞳に絶望と諦めと、強い憎しみを宿していた。
しかし、この日出会ったこの男の瞳は違った。
揺るぎない信念を持つ、生命に満ち溢れた色だった。世界を受け入れてるわけではない。だが、闇などには決して飲み込まれないという強い意思を持っていた。

今まで生きてきた中で見た色彩のなによりもきれいだと、ローは思った。

「お前の目のいろ、きれいだな」


気付けばローは思うままを口にしていた。
"目"という単語を聞いた瞬間、相手が自分たちを排除する側の存在と言うことを思い出して身構えたキッドだったが、続けて出てきた言葉は予想もしていなかった言葉であった。

「…目の色を誉められたのなんて初めてだ。」

そう警戒心を全面に出して呟くキッドに、一瞬きょとんとしたローだったが「そりゃそうか」とやわらかに笑った。

そうして二人は出会い惹かれ合い、愛し合うようになる。
だが、幸せな日々は続かなかった。
キッドが禁忌の子供であることが他の天使達にばれたのだ。
知っていて報告をしなかったローも罪に問われる。
逃亡する途中、キッドは片羽根を失った。
羽根は天使達の体の構造を支える中枢。片方でも失えば、傷口から細胞の崩壊が始まり、最終的には消滅する。
そしてその崩壊は、触れ合っている部分から他の個体にも感染していく。

(時間が、ない)


上級天使たちが様々な会議を行う議事堂の広い広い庭の片隅に、キッドとローは隠れていた。
追手に見つかるのも時間の問題だろう。
でも。


あと少し、もう少しだけ。




「…トラファルガー……」

掠れた声でローを呼ぶのは、やっぱり失いたくないただひとつの存在。

キッドは力の入らない手で、ローの頬を撫でた。

「…ごめんな」

自分といればローにもいつか危害が及ぶ。始めからわかってたはずだ。
わかってたのに想いを止められなかった。
叶うはずのない未来を夢を見てしまっていた。

「でも、」

――お前はおれに生きる意味を教えてくれたから。

「どうしても、お前を失いたくなかった…」


ローは頬に触れるキッドの手に自分の手を重ね涙を流す。
さみしかったね。
かなしかったね。
おれたちの胸は、いつまでも軋んでいたけれど。
もう、それも終わる。
光降る場所へ行こう。ここは白くて冷たいから。やさしい風の香る場所へ。
一緒にいこう。
おれにもお前にも、ほら、羽根がある。もう透けてきてしまったけど、二人なら、きっと。

今度こそ、笑って暮らそう。







とてもとても穏やかな日(いっそ夢であれば良かった)


(あれ、あいつらは?)
(赤目の奴は片羽根なくなってたよな、ならもう消滅したか)


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