『ロー…』


ローは真っ白な空間にいた。
どこからか自分を呼ぶ声がする。また、あの夢だ。

「なんなんだよ…っ」

声からは逃れたいのに、何かにすがりたい。
なにがなんだかローにもよくわからない、わからないが、なんだか怖い。

ローは耳を塞いで走り出す。
ただやみくもに、消えていきそうな何かを見つけたかった。

しかし、声は頭に直接響いてくる。


「いやだ…!呼ぶな!」

ローはしゃがみ込んで、強く頭を抱える。

「呼ぶな…呼ばないでくれ……」



おれはそっちに行きたくない



そう口にして、ローはふと動きを止めた。

「そっち」ってなんだ?
ざわざわと胸が騒ぎ出す。


なにか、おかしい。なにが?


「いや、落ち着け、これは夢だ」

いくらリアルでも、夢なのだ。
寝る前にキッドも言ってくれたではないか。


『夢でも現実でも、お前はお前だよ』


その言葉を思い出して落ち着こうとしたローは、また胸のざわつきを感じた。

さっき引っ掛かったこと。
もの足りなさを感じた理由。


―――どうして彼は「ここが現実だ」と言ってくれなかったのか―――



『ロー…!』

遠く近く、わからないところからの声が一段と強く頭に響く。


早く朝になれ早く朝になれ早く朝になれ!

ローは祈るように繰り返した。
夢の中の出来事のせいで、キッドの言動にまで不安を感じるのが嫌だった。
目が覚めれば、また彼との一日が始まる。
この世で二人切りでも構わない、愛しい毎日が、始まるんだ。

邪魔しないでくれ、早く目を覚まさせてくれ。

ローはひたすら目が覚めるよう祈った。



『ロー…』

うるさい

『ローさん…』

うるさいうるさい

『ロー…!』

「うるさいなペンギン、お前は心配性過ぎるんだよ!」

『ローさん』

「うるさいシャチ!おれを呼ぶな!」


───ドクン、

ローはハッとして顔をあげる。
ペンギン?シャチ?
そうだ、この声は自分の友人二人のものだ。
なんでだ?なぜ自分は、彼等を忘れていたのだろう。
なぜ彼等は、自分を呼んでいるのだろう。


だっておれは、なにもかも捨てて、ユースタス屋と、



ユースタス屋、と?








「あ…」


ドクドクと早まる鼓動。
全身から冷汗が吹き出し、フラッシュバックする光景。
冷たい目線。感情のない言葉。伸ばした腕と耳障りな音。

「あぁ、ァ、」

わかってしまった、胸が騒ぐわけが。
わかってしまった、胸が痛む意味が。
どうして彼が、あんな言葉をはいたのか。

「あぁ…ああぁぁぁ…」

身体が小刻みに震え、頭を、胸を、押さえてローはうずくまる。


痛い痛い、いたいよ、




イタイヨ、ユースタスヤ。







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