この暗い暗い世界で、お前に会えたことだけがおれの光だった。
おれはもうすぐここから未だ見ぬ光に満ちた世界へと出ていく。それは同時におれの寿命があと少しだと言うことを示していた。
決められた運命のようであり、この世界のルールのようでもあるようなその旅立ちの先には死しか待ってはいないはずなのに。
どうしてこんなにも焦がれるのだろう。
生きて生きて生きて。外の世界はそれだけで命が削られる。
それでもがむしゃらに、この暗い世界で失った時間を取り戻すように生きた果てに命の終わりを迎えられたなら、この剥がれ落ちる皮膚も熱と光を求めてやまない思いも、報われるだろうか。
旅立ちに恐怖はない。
あぁ、それでも。
「行くな」
お前と出会って、この世界に光を見つけたときから、おれはこの暗闇までも愛せるようになったよ。
一つだけ心残りがあるとすれば、鮮やかな世界を共に見れないこと。
「行こうが行くまいが、残された時間に変わりはないぜ?」
「ここにはおれがいる。」
そうだな、お前がいるってだけで、こんなにもこの場所は意味を持つ。
でも、
「おれはもうここでは生きられない。」
光の下で見るお前の隣で、世界を閉じたかった。世界との別れよりお前と別れる方が先だなんて。
この世の仕組みはおれたちにあまりやさしくはないみたいだ。
「お前もおれと一緒なんだ、わかるだろ?」
どうせ残り少ない先なら、目一杯生きてやる。
おれはこれから羽ばたくんだ。
だから、そんなカオするなよ。
「先に行ってるよ、ユースタス屋。」
「って感じじゃね?セミって。」
「…てめぇまさかそれだけか?」
「なに期待してんだ年中発情期か。」
「ちげーよ!こんな夜中に叩き起こしてきやがって…何かと思うだろ普通。」
「ふふ、心配してくれたのか?」
「…そのあげくおれをセミなんかに例えやがって。」
「なんだユースタス屋、セミ嫌いなのか?」
「そーゆー問題じゃねぇ!」
飛んで火に入る夏の馬鹿
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