もっと近寄りたいのに。









「それ以上近寄るな」


弱りきった赤い目が胸に突き刺さる。もう力のあまり入らない体で、それでも必死におれを近寄らせまいと威嚇する。
どこまでもどこまでも、おれにやさしいユースタス屋。

お前の言うことは正しい。しょうがないんだ。

おれがおれで、お前がお前である以上、変えられないことだから。




おれたちは出会ってからずっと一定の距離を保っていた。
自分のことは十分すぎるほどよくわかっているおれたちに選べた道は二つ。距離を保って付き合うか、干渉しないかだ。
それ以上距離を縮めても、お互い傷付け合うだけだと知っていたから。
それでも、どうしてもそばにいたくて選んだ道だった。全てわかっていて、お前の隣にいたけれど。
抱き合いたくても、あたため合いたくても、触れ合うことの出来ないおれたちなら、やっぱりあの選択は間違いだったのだろうか。


「おれは、お前がそばにいればそれでよかった」


おれの思考などまるでお見通しとでもいうように投げかけられる言葉。
苦しそうに大きな体を丸めて、それでも威嚇だけは忘れないで。自分はおれにやさしくするくせに、おれが近づくのは頑なに拒んでいる。泣きそうなくらい、お前の想いが伝わってくる。
おれだってそう思っていたよ。だって愛してしまったんだ。傷つけたくないと、心から思ってしまった。

でも。

ユースタス屋、ユースタス屋。


やっぱりお前の温度を感じられないのはさみしいよ。


たったひとつ、おれが欲しいと願ったもの。
それが、どんなに望んだって叶えられないものだったなんて、知りたくなかった。


「そこで、…ちゃんと見届けてくれよ」


あぁ、お前は残酷だね。お前が静かに冷たくなっていくのを、ただ黙って見ていろと言うんだね。
だけどね、ユースタス屋。おれはもしそんな日が来たら、全てをなげうってでも、この身が滅びようとも、手を伸ばしてお前を抱き締めるつもりだったんだ。


次に生まれる世界が、どうかやわらかくあたたかいものであるように祈りながら。


お前に触れることで、きっと胸の痛みは消えるから。体の痛みなんて、今まで耐えてきた胸の痛みに比べればどうってことないよ。

だから、お前の言うことは聞けない。一人になんてさせない。
一歩ずつ、近寄る。悲痛な顔をしたユースタス屋が来るなと叫ぶ。

「お前だけは、傷つけたくない…」

やさしいやさしいユースタス屋。でもおれは、お前となら目も眩むほどの幸福の中で生を終えられるよ。
だから、おれも、一緒に。


「やっと、触れられた」
















「って感じじゃね?ハリネズミって」

「てめぇまたそのパターンかよっ!しかもおれを勝手に瀕死にさせやがって」

「大丈夫だって、ちゃんとおれも一緒に死んでやろうとしてただろ?」

「てめぇの勝手な妄想だろうが!」

「そうじゃなくてさ、ユースタス屋。おれたちハリネズミじゃなくてよかったなぁって。」

「…」

「こうしてちゃんとふれ合えるだろ。まぁ傷付け合うこともあるが、温度は感じられる。」

「…そうかよ」

「それでさユースタス屋、」

「あんだよ」

「ハリネズミは好き?」

「だからそれ関係あんのか!?」






度目のラスト・シ










『飛んで火にいる夏の馬鹿』とつながって(?)ます^^


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