それでもずっと、探している。








昔からいつも何をしていてもどこか物足りなかった。
常につきまとう枯渇感に苛立ち、そのフラストレーションをぶつける為にずいぶんとケンカや悪行も繰り返したが気分は一向に晴れず、薄いもやがかかったような日々を過ごしていた。

一変したのは、初めて海を見たときから。

洪水の様に押し寄せる記憶が、頭にかかっていた霧を消していく。
ただ夢で見たものの記憶なのではないかとか、昔見た映画のストーリーではないかとか、そんなことも一瞬思わないでもなかったが、すぐにそんな考えは打ち消された。
記憶の中である男と交わした最後の言葉が、今まで欠けていた胸の穴にぴったりと埋まった。

あの日会えなかったという思いが、今も引っ掛かっているのだろうか。


あれから、なにかある度に海を見に行った。だが、この世界の海は穏やか過ぎて厭でも違う世界だと思い知らされる。どうしようもなく恋しい場所なのに、還りたくても還れない。
ここにはおれしかいないのだと、証明されているようで。

だから、空を見上げる。
清々しい、秋の早朝。
もうすぐすると澄んだ冷たい空気が辺りを満たし、世界を白く染めていくだろう。
空は高く遠く、どこまでも世界を見下ろしている。
いつどの時代も、空はそこに存在していたはずだ。海と違ってきっと空は変わらずにそこに在っただろう。
あの頃といまに共通するたったひとつのもの。それを辿っていけば、どこか遠くでまだ繋がっているような気がして。


「        」


呼びたい名前があった。
呼ばれたい声があった。
だけどそれは、遥か遠い場所で響いているだけでここには届いてこない。

またな、と告げた声を、実現出来なかったその言葉を、いまでもこんなに覚えているのに。








守りたかった約束の亡骸だけが、今もまだ掌の上で

(お前は、どこにいる?)


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