見えもしないその先に、お前がいるというのなら。
ぷち。
「…ぃて」
細く柔らかな赤い毛を指にくるくると絡ませ、不機嫌な顔で振り向いてきたキッドをよそにローは楽しそうに遊んでいた。
「なにしてんだよ」
「乙女ごっこ」
「…」
毎度のことながら、意味がわからない。
放っておこうと思い直し、キッドはネイルを続けた。凶悪な顔に似合わず細かい作業の得意なキッドの指先は、美しい艶をまとい漆黒に染まっていく。
あと、一本。右手の小指を塗れば完璧だ。仕上げに掛かろうとしたキッドの右手を、突然ローがぐいと引っ張った。
「…っぶね、てめ、何すんだトラファルガー!!」
危うく、丁寧に塗り直した右手全てがムダになるところだった。
だが、そんなことはお構い無しと言った風にローはくすくす笑い、今度はキッドのまだ装飾されていない小指に彼の赤い毛を巻きつかせる。しかしそう長くもない毛はするりするりと巻きつかせるそばからほどけて行った。
「…やっぱりそう簡単には捕まっちゃくれねぇなぁ、ユースタス屋」
ふふ、と笑いローは小さな声で呟く。
その目はキッドの赤毛を通して何を見ているのか。
「…こんな頼りねぇモンに捕まるかよ」
フンと鼻を鳴らして笑うキッドに怒ることもなく、ローは「わかってるさ」と言いながらもやはりくるくると髪を巻き付けようとしている。
まったく、似合わない。その思考の全てが計算なのではないかと思うほど。
「おれは、な」
くだらないお伽噺を信じているわけでも、それに縋っているわけでももちろんないだろう。
それでもきっと、この男は。
「だが、まぁ、」
ぐいと、今度はキッドがローの手を引っ張る。自身の指に巻き付いている赤い毛を取り、折れそうに細い指にそれを絡めていく。
「お前にはこんくらいがお似合いかもな」
「…ユースタス屋、小指立ってる、キモい」
「るせ、爪乾いてねぇんだからしょーがねぇだろ」
「ふふ、変な光景」
「ハッ、どっちが」
ローの小指には器用に蝶結びされた赤い髪の毛。
縁起でもないタトゥーの入った指には笑えるほど似合わないし、細く儚いただの髪の毛はどこへも繋がってなどいないけれど。
それでも、お前の顔がこれで少しでも綻ぶのなら。
「付き合ってやるよ、乙女ごっこ」
ロマンティック・ベイベ似合わないのはお互い様だ。index