※ 雰囲気エロのR-16



 ばたん、という物音にうっすらと目を開けると、ドアのところに立つ真太郎と目が合った。上半身は裸のまま、下にスウェットだけ履いた、ずいぶんとラフな格好だ。だけど、引き締まった身体が強調されてなんだかいやらしい。
 真太郎は私と違ってひどくすっきりした顔で、やっぱり女はこういうときに辛いな、と思う。気だるさの残る身体を起こすことができず、寝返りを打って彼の方へ体を向けた。一糸纏わぬ姿をこの明るさでみられることはまだ抵抗があり、シーツを手繰り寄せて体を隠した。真太郎はペットボトルを持ち、ベッドに近づいてきた。ウエストが緩いのだろう。ずり落ちるスウェットから、ちらりと姿をあらわす黒のボクサーにごくりと喉が鳴った。あらやだ。心の中で小さく抵抗をしてみるけれど、人間本能には勝てないようで。スウェットからちらりと見えるパンツをじいっと凝視する。真太郎はそんなことに気がつくはずもなく、ベッドの淵に腰掛けてシーツのうえからわたしの腰をさする。ガラスに触れるような、とてもとても優しい手で。私は彼の、優しさのカケラを見ることが好きだ。

「飲めるか?」

 たぷん、と揺れたミネラルウォーターと、穏やかに笑う真太郎に心をぎゅっと握られて。小さく首を動かて、汗をかいたペットボトルを受け取った。壁にかかった時計を確認すると、時刻はまだ午後十一時。家族が親戚の集まりがあると出かけたのだが、家に来ないかと誘われ、あれよあれよと家に来たのがおやつの時間がすぎた午後四時手前。それからテレビをみて、キスをして、それから。「どんくらい寝てた?」と、少し枯れた声で聞くと、三十分ほどだと、さすり、腰を撫でられた。受け取ったペットボトルの蓋を開けて差し出すと、真太郎が眉間にシワを寄せた。

「飲め」
「……飲ませてよ」

 そういうと、彼はぐっと眉間に力を込めた。しわしわと寄った眉間を指先でちょんとつつくと、彼は観念したようにため息を吐いて「まったく」と言った。煩わしい、と顔に書いてあるけれど、そこは彼のツンデレだと思うことにしておこう。
 彼は口にミネラルウォーターを含んで、横たわる私と唇を合わせた。ふれた唇は暑いのに、じんわりと伝わる水の冷たさに「ん、」と声を漏らすと、彼がむりやりベロを突っ込む。ぬるり、たらり。舌の熱さと水の冷たさに驚きながらも、口に流れてきたモノをごくんと嚥下させる。それなのに、彼はまだ離れない。絡まりあうベロが熱くて、いやらしくて。下腹部がむず痒くなり、居ても立ってもいられない。彼の肩をやんわりと押し返す。

「満足か」
「満腹です」

 そろりとベロを出すと、真太郎は満足そうに鼻で笑った。性に淡白そうな顔をしているくせに、彼の左手はびっくりするほど、テクニシャンなのだ。あーこういうところも天才なのか、と彼との初夜を終えたときに真っ白の天井を見て思った。きっとあのときのわたしは、世界で一番くたびれた女だったろう。
 わたしはベッドの脇に落ちていた真太郎のワイシャツを拾い上げて、腕を通す。第二、第三ボタンだけを止めた。さすがに、裸は恥ずかしい。わたしはまた、さっきと同じように横に寝転がる。真太郎はペットボトルを少し離れたテーブルに置くため、私に背を向けてベッドから腰を上げた。ずるり。スウェットがずれて、彼の黒いパンツがまた顔をのぞかせる。あらやだ。

「……えっろ、」

 わたしの骨ばった掌が素早く彼のスウェットを掴んだ。そして、ずるり、引っ張った。あらやだ。もう一度心の中でひとりごちる。

「おま……!」

 慌てた真太郎が、スウェットを掴む。面積で言うなら、ちょうど半分ほどは見ることができた。ゴムの部分は赤いラインが入っている、黒の無地。「なにをしているのだよ!」。慌てて振り向き、ずれてもいない眼鏡をかけなおす。目尻はほんのりと赤くなっている。「あんだけねちっこいセックスしたくせに、変なところで恥じらうのね」と言えば、彼は「そーゆうこっちゃないのだよ!」と声を荒げた。じゃあどうゆうことなのよ。彼は目元の赤みを消して、さっきと同じようにベッドに腰掛けた。

「なにをした」
「パンツ見た」
「……聞きたくないが、聞こう。なぜ」
「えー? なんかえろくって。……ねぇ、ちょっとスウェット脱いで見せてよ、真太郎」

 上に置いてあった枕を引き寄せて、顎を乗せて真太郎に向かって微笑めば、彼は嫌悪を露わにした。むすっとした表情で「意味がわからん」とわたしの言葉を一蹴した。ねぇ、お願い、と少しだけか細い声を出してみれば、彼はまるで羽虫を見るような目でわたしを睨む。片腕をベッドにつき、足を組むすがたはモデルにも劣らない美しさである。

「やだ真ちゃん、彼女に向けていい視線じゃないわよ?」
「そうさせているのは他でもないお前だ」
「ほうら、いいから、スウェット脱いでよ。ちょっとでいいの。十秒くらいでいいの。ね?」

 彼の腕を引っ張ると、体重を支えていたその腕はかくんと折れた。「うお、」。らしくない声をだして、彼はベッドへ沈んだ。彼に顔の横に手をついてちゅっ、とキスをする。眼鏡の奥のモスグリーンの宝石がきらりと輝いた。「真太郎、ね?」。首をかしげてみせると、彼は目を閉じてゆっくりと息を吐いた。「……今日だけだぞ」と釘を刺し、ベッドに横たわってくれた。枕に頭を乗せて、右足だけ立てた状態で寝っ転がる。前髪を掻き上げて、じっとわたしの行動を待つ姿が、愛おしくて仕方がない。
 わたしの中に潜んでいる欲望がじんわりとカラダを温めていく。じゅくり、熟れた性欲には、蓋をして。彼のスウェットに手をかけた。

「いただきます」
「……語弊があるだろう」

 彼の言葉を右から左へとさらりと流すと、彼がまた息を大きく吐き出した。今日の彼はよくため息を吐く。わたしのせいなのだけれど。でも、彼のため息がわたしのせいで生産されていると思うと、それはそれで興奮するのだ。ああ、わたしってもしかしなくても変態にカテゴライズされる人間なのではないだろうか。まぁいい、このさいそんなことはどうでもいいのだ。今は、目の前にある、ゴチソウだ。彼の足の間に座り、するりと邪魔臭い布をはがすと、黒いボクサーパンツが少しだけ姿を見せた。

「しんたろ、腰」

 わたしの言葉に、すっかり諦めた様子の真太郎が腰を上げた。ウエストのゴムを伸ばして、彼の足からするりと邪魔なそれを抜いた。洋服を剥かれることに抵抗があるのか、真太郎はやはり不貞腐れて私を睨んでいる。わたしはたまらず舌なめずりをした。

「……えろい」
「黙れ変態」
「変態だもーん」

 ああ、たまんない。黒いボクサーパンツから伸びる白い、筋肉質な太ももが、電気を浴びてきらりと光った。そういえば、いつもわたしが脱がされるばかり。気がついたときには彼がもう脱いでいて、こうやってまじまじカラダを眺めたことはなかった。パンツも然り。いつも彼から与えられる快感に溺れて、息をすることすら出来ないから。ただじぃっとわたしを見つめる真太郎の視線にすら、押さえ込んでいる性欲がシゲキされる。

「なん、かさ」
「……なんなのだよ」
「美味しそう」
「は!?」

 ナニかを察知したのか、彼はがばりと上半身を起こした。しかし、そんなことでわたしがやめるわけもない。ベッドに肘をついて、彼のパンツに顔を寄せた。あ、これはなかなか、ヤバイ。腰に、クる。ちらりと視線を上に向けて真太郎を見ると、目を大きく開いたまま、固まっている。信じられない、という感情が前面に出ている。くつり、喉の奥で静かに笑った。わたしは口を開いて、舌を出した。ぺろりと黒い布を舐める。

「っ、おい、名前!」
「真太郎くん、硬くなりましね」
「……黙るのだよ」

 硬度をましたソレをすすっと指先で撫でると、彼はぴくりと太ももを震わせた。「どけ」「まだイヤ」「いい加減にしろ」。そんなこと言って、本気で怒ったりしないのだから真太郎だってソノ気なのはわかりきったことだ。
 わたしはそっと口を近づけて、彼の目を見ながら黒い布に舌を這わせた。ごくり、彼の喉仏が上下に動いた。熱のこもった視線を受けながら、彼を隠す布にキスをした。硬度と質量が増し、黒いボクサーパンツがどんどん熱く膨れていく。私は熱を持った彼のオスに、パンツ越しにやんわりと歯を立てた。

「っぁ、」

 確実に、快楽に反応を示す彼にじんわりと身体が疼く。じゅくりじゅくりと熟れていた性欲が蓋を開けて飛び出した。にんまりと笑ってやると、彼が舌打ちをした。そして「名前」と低く、囁くように名前を呼んだ。

「……来い、」

 誘われるまま近づいて彼を跨いで見下ろすと、彼が、笑う。まるでオスの獅子みたいに、欲に飢えた目をした真太郎に、わたしの中に住むメスが反応を示す。「淫乱め」。彼の言葉に、お腹の奥の、それまた奥のほうがキュンと音を立てた。「真太郎限定よ」「当たり前なのだよ」。ふんと鼻を鳴らした彼が、口角をあげ、わたしの首筋に爪を立てた。彼のトクベツな左手の、爪。ぴりっとした痛みが、気持よく感じてしまう。彼の優しさのカケラを見ることが好きだ。けれど、こういう蠱惑的なところは、もっともっと好きだ。

「次はお前が上で動いてくれるんだろう?」

 真太郎がわたしの耳元で、ゆったりと言葉を吐いてわたしを煽る。そっと、なにも纏っていないわたしの割れ目を撫でられ、はしたない水音が鼓膜を揺らした。ごくり。自分の喉がなった。

「……えっち」
「お前ほどではないのだよ」

 するり、彼を隠す布に手を入れる。しっかりとたちあがったオスを、やんわりと掌で包み込む。「好きよ」と愛を囁いて彼の唇にキスをすると、彼は満足そうに笑ってくれた。



12.09.13
企画:the Battle Under Clothesさまに提出

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