パパとママとボク2. | ナノ



「お前は私の傍に居るのが良い。」


自信に満ち溢れた物言い。
比類無き絶対性。


「お前は私の愛を一身に宿さなければいけない。」


望むまま…
望まれるままに、と、信仰にまでの昇華を甘受する。


「私に無関心でいるのは許さない。」


風格のただよう肉体が重なり、もたらされる支配をただただ待つだけ。





「……っぁ、っぁ、ぁぁあっ…ぁー………ふっ、……ん…はぁ……」
「無知なお前に全ての歓びをそそごう。」


言葉に追従する以外の選択は与えられず。彼の創造した宇宙に囲われ、たった独り。
自分で考えるべき事など無いのだと、大きな掌で踊らせてくれる。


「っは…ぅん、っふ…っ………ぁっぁっ、ぁあっんぅ、…っあ…ぁ…」
「ヒソ…カ……」
「ぁあっ、あー…あっあっんんぅーっ、ふ、あっあぁああっ…ぁ、っあ」
「……愛している。」


俗世の父子関係とは遊離を極め、そして同時に、不透明な己の存在が吐精していく。
彼の世界で幾度恵まれ、与えられ、証を刻まれても、それは真っ白な空虚でしかない。
まっさらなシーツの海に、身一つで投げ出されたように。

これ迄も様々な他者よりの妄念に付き合い、様々な煩悩渦巻く求めに応じてきた。だが、自我からの渇望といえば皆無でいて、欠落したままに沸くことがない。
ただ云えるのは情欲の興奮が唯一。
この世の、境地。

少年の淫らな孔が男を玩味する。


「あっあぁ、あっん…ぁぁっぁっぁ、はぁ……んんっぅ…んっ」
「いっそ、喰らってしまいたい。」


視界いっぱいに石膏像のように白く端正な顔が映る。
表情は作り物めいて見えてもなお、目鼻立ちのはっきりとした風貌は厳かで、性差を越え妖艶に美しくある。
こちらを見据えての舌舐めずりに唇が濡れ色を含んだ。その口許がもう一つの柔らかなそれへと降ろされ、唇を啄み、長い舌が咥内で歯列をなぞる。
喉へと流れ込んできた唾液は漏らさず嚥下した。
貫かれた半身と共に行為の繋がりは奥深くへ到達する。


「んんっ……はぁ…ぁっ、ぅんっんっ、んん、ぁ………あぅふ…」
「骨の髄まで、喰らい尽くして…」
「ん、ふ…はぁ、ん、はぁはぁ…あ、…っぁ……んっ……パ、パ…ぁ…っ」
「血肉もろとも…ない交ぜになり、……細胞の隅々まで…溶け合い……同化する。」


粘膜内部に抉り入っては排出の繰り返し。目一杯伸ばされ引きつる壁が熱を持つ。


「っあぁ、っひ、……んん…っ、ぁっ……食べられた…らぁ、……んっ…は、……きっと、死んじゃう…ね……。」
「いいや、私の中で伴に生き続ける……そうだろう?ヒソカ。」
「ふぅ…っ…あっあっんんっ……でも、ボクをっ殺さないと…でしょ?」
「……安心して、委ね受け入れると…いい。…滅び、消え失せるものなど…無いのだから。」
「ぁっぁっ…っーんぅ……始め、からっ何も無い、あっぁっ…ぁ…空っ、ぽ…だ……」
「そう…何時だって私の手の中、さ。何処にも、やらず……支配している。」


倒錯した執着の末。
肉体の放棄と自己の放棄を望まれ、報いる為の振舞いはふさわしく。恭順的に受容しては取り巻く郭となり、奈落の器であり続けた。


「んっああぁっ……っは、ふっ…ん………クスッ…フフフ…囚われたのは、だぁれ?」
「………あぁ、そうか、そうあるべきか…。私はお前に…お前にこそ、食べられたいのかもしれないな。」


下肢のストロークがぴたりと止まり、間近で見上げていた顔が離れる。
次に動いたのは上体を起こしサイドテーブルへと伸びた右手。その手が胸の前へ移動すると、鋭く銀に光を放つペティナイフが握られていた。


「これを眺める度…蜜月の契りを夢想しては、熱情を駆き立てられた。」


ナイフの切っ先がもう一方の手のひらを撫でる。鋭利な刃は皮膚を裂き、鮮血を溢れさせた。
その手がゆっくりヒソカの口許へ降ろされ、赤い泉は重力に従い血筋となって指から唇へ伝い滴る。潤いをもつ指先は小さな唇の感触を楽しみながら愛撫を施す。
馬乗りの状態で組み伏せられたまま、鉄臭い液体が口の中に広がっていく。
与えられた行為に応えるように、舌を絡め指を咥内へと含み吸いとった。


「拒むことすら知らないお前を、愛している。」


ちゅくり、と手が口許から離される。
目にしたのは聖人のごとく柔らかに微笑み、ナイフの刃先を己に向けた姿。その柄に両手が添えられ固く握られた。
瞬間。
胸部中心を、一突き。


「……そしてっ…私だけのお前を、愛している。」


ナイフは奥深く入り込み、大量の血が止めどなく溢れ出ていく。そのまま下方に力を込めて肉を分断させ、臓物諸とも腹を捌いた。血の勢いは更に激しく内から吹き出す。


「お前を支配下に、君臨するのは私だ。」


その言葉を最期、彼は喉元へ刃を突き刺す。
ヒュウヒュウと風切り音にも似た呼吸を数度繰り返し、盛大な吐血。
流れ出た血潮はヒソカの腹に血溜まりをつくり、無垢な裸体を染めあげる。真っ白な虚無の世界から、真っ赤な極彩の世界へと色付いて。

ダラリと下げられた両腕。
目蓋も閉じず馬乗りで息絶えた姿は、見下ろす覇者であったもの。

自分の上で微動だにしなくなった体。胸に手を押しやりそのまま仰向きに後ろへ倒す。のし掛かる重心の股下から抜き出て、今度は自分が股がる体勢に入れ換わる。

いつの間にかあの時の現象が沸き起こっていた。
体内に保持する生気が陽炎となり発散されるのが見える。再び全身に留め、纏わせた。
彼の喉元に深々と突き刺さったままの、本来在るべきものではない異物。引寄せられるかのように触れると、その見える陽炎がナイフ自体をも包囲する。
異質さに感興をそそられ、手を伸ばして柄を握り、引き抜いた。続いて首筋に刃を沿わせあてがうと、ズブズブと裂け目を作り入り込む。
切れ味は素晴らしく、熟れた果実に鋭い刃を入れた感触そのもの。骨さえ容易に切断する。

胴体と離れた、頭部。
両手で持ち上げ観察する。
首の断面中央、血にまみれながらもそこに空洞を見付けた。指を突っ込みそっと拡げると中は柔らかく指を包む。
下腹の奥から、妖しい痺れが広がりを持つ。
一連の出来事に熱を帯びた自身。その穴に勃起したそれを挿入すると、彼と視線が合う。
目を見開いたまま物語らぬ肉塊と化した屍。この世界でボクだけを瞳に写している。それはとても素敵な行為に思え、全身がゾクゾク震えた。

衝動が走り貫く
何もかもを貴方の目にあられもなく晒されたい。
知らない激情
この人とボクとの繋がりを初めて持てた気がした。

両手でこめかみを押さえつけ、無我夢中で腰を動かす。

ボクを見てる見てる見てる見てる見てる見てる見てる。
ボクを、ボクだけを。

血縁故のそれとはかけ離れて違う親子の結びを与えられていたが、それ以上。
新たな愉悦に頭が沸騰した。
これはボクが求めていたものなのかもしれない。





絶頂へ上り詰め果てると、体にかかった付加が大きすぎて、暫くその場から動けなかった。
放った白い精と血が混ざり合い、男の口から赤みの強いピンクの液がつぅっと垂れる。


浴室に向かい汗と血と体液を流す頃には、二人の顔を忘れ、これからの楽しみだけを考えていた。

罪悪は微塵も感じず、名残惜しむ気も持ち合わせていない。

偽りの夢物語
そんな陳腐で安っぽい言葉が、よく似合う。



狂気と狂喜
ボクは全てを享受する。







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