アイジエン大陸の西南、市街地の外れ。
瓦礫が散らばる廃屋。
凛とした風がそよぎ、互いの髪をフワリと撫でる。
内壁は打ちっぱなしのコンクリートで、澄んだ音がよく響いた。
「ここまでの道のり、ちょっと遠かったよν」
「ああ、呼び出して悪かったな」
「微塵も思ってないクセに…罪なオトコだ、くくく◆」
ヒソカの口調は相変わらず。
たわいもない話に、本質を持たせる。
「本題だが…かつての己を取り戻す、その手助けをお前に頼みたい」
取り巻く空気が、鋭く射るものに変わった。
この感覚は久しい。
「ボクが呼ばれた理由…優秀な除念師が見付かったのかい?それも訳アリ、の◆」
「そうだ」
“訳アリ”と定義したのは危険因子であった自らを招致=今の俺には成し得ない仕事だという確信。
そこまで察しがつくなら話が早い…予言とGIの共通性、GIの仕様を伝えた。
念能力者以外は入り込めぬ世界。
ひととおり説明が終わると、また、この場を支配する空気が変わる。
ヒソカが身に纏ったそれは酷く色情に満ちていた。
「ねぇクロロ…私欲以外にボクが動かないコト、わかってるだろ?」
小首を傾げる仕草は、願望をねだる子供そのもので。
私欲以外に動かないのではなく、その気紛れな…しかし純粋な欲求には命をもいとわないという事だろう?
「……報酬は…俺、でいいか?」
「もちろん、…最高の見返りさν」
「そうか」
憚ることもせず
臆面もなく
俺の首筋を見て綺麗に微笑む
「二人きりで、だよ?」
「…ああ、約束しよう」
話の内容は死の取引―‐
「ずっと焦がれてた」
甘く導く契り
「早くアナタの熱を感じたい◆」
甘く囁く誘い
「アナタは何処をとってもボクを奮わせる」
噎せ返るほどに甘く芳しい。
人の持つ最大のものは命。その命を懸けての戦い。
勝負の緊張感だけがもたらす昂りと快楽愉悦。
ヒソカはそこに全てを見出だす。
殺したいと思うことを拒絶し
恐れることが
何より恐ろしい癒着関係。
「殺り合いたいと…やっと両想いになれたν」
利害の一致に満悦として目を細める。
卓上に置いたゲームの機体の前へ歩を進め、そっと両手をかざす。
これで復活再起は確約された。
「それじゃあ行ってくるよ◆」
見やった機体から視線を外し、顔だけで振り向きこう告げた。
「待ってて…」
俺は軽く首を縦に振って答える。
それを見届けると、ヒソカは視線を戻し、吐露するように…言葉を洩らした。
―‐直後、異質な気が放たれる。生身でオーラを受けるのは耐え難いものがあったが、それも一瞬で当人と共に消え失せた。
(クロロの築き上げてきたプライドは、ボクに崩される為だけに意味があるんだ◆)
振り向き様見せた挑発的な笑み。
独善的な発言精神世界。
形成する論理観には唾棄すべき愛しさが溢れ出し、感じる事の無かった心の臓を鼓舞させる。
魅了してやまない底から沸き立つ歓喜。
奪うものが奪われた、その時…
骸と化するのは誰なのか
どうなろうとも
最期に決まってお前だけは笑っているのだろう。
甘い取引
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