『なぜ、あの時なまえちゃんに
声をかけてあげなかったんですか?』




全速力で走っている途中
秋山の言葉を思い出す

その言葉を振られた時
真っ当な答えが思いつかなかった





『俺から声をかける必要なんてない』

・・・違う。



『・・・声をかけても邪魔してしまうと思った』

・・・そうだ。





なまえが誰と遊ぼうが
どこのどいつと付き合おうが
俺にとっては娘みたいなもんだ

俺が口を挟む必要なんてない



”俺みたいな年の離れた男が
なまえの邪魔をしてはいけない”




それが、・・・俺の答えだった




『・・・鈍感なのね』



俺はただ、なまえが他の男と
付き合っているということを
認めたくなかった

そうだ、俺は本当に鈍感で
素直じゃない子供同然だ



『違うわ、れっきとした大人よ
・・・だから桐生さんも年相応に
相手をしてあげてもいいと思うの』






俺は、なまえが好きだ






走っている最中、スーツの中で
揺れ動く重量感のあるライターが
自分の鼓動と一緒に
揺れているような気がした





「待ってろ・・・なまえ・・・!」









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