秋山のとっておきの場所とは
ホームレスが屯(たむろ)している
とあるビルの屋上だった



「ほら、ロマンチックでしょ」

「別にそこは求めてはいないが
確かに見晴らしはいいな」



ビニールからお酒を取り出し
数名のホームレス仲間に配ると
秋山は柵に腰掛け夜空を見上げた

桐生も同じように腰掛けると
深い溜息を吐いては酒を口にする



「ここは色んな情報が入ってくるんです
神室町の情報網、といっても過言じゃない」

「お前は本当に顔が広いな・・・」

「まぁ一応、貧乏から金持ちまで
色々と経験済みですから!」


お得意の苦笑をして頭を掻き
秋山は煙草を取り出し口に咥えるが
一瞬なにかを考え、煙草を手に戻し
桐生の方を向き、口を開いた





「でも、そんな俺でもひとつだけ
分からないことがあります」

「・・・なんだ?」



桐生は同じように煙草を取り出す
そしてなまえに貰ったライターを
いつものように取り出して
火をつけようとしたが
屋上だからなのか、風が吹き
なかなか火が点かない


秋山がそのライターの傍に
手を囲うように翳すと
火が灯り、桐生の咥えていた
煙草に火がついた





「なぜ、あの時なまえちゃんに
声をかけてあげなかったんですか?」








秋山は真剣な表情でそう言った






その直後だった











「秋山さん!!」


一人のホームレスが慌てて駆け寄り
なにかを伝えている

お酒を飲んで賑やかだった
場の雰囲気が一瞬で不穏な空気に変わる




その言葉を聞き取った秋山は
桐生をすぐさま見つめた






「桐生さん、なまえちゃんが危ない
今なら間に合います、追いかけましょう」







桐生の頭の中にあの時の
男の姿が過(よぎ)る


咥えていた煙草を踏みつけ
二人はなまえの
いる場所へと急いで向かった








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