秋山のとっておきの場所とやらに
二人歩いて向かう途中
劇場前で秋山は指を指す



「ん?あそこにいるの
なまえちゃんじゃないですか?」



歩いていた足を止めその方向を見ると
そこには男と親しそうに会話する
なまえの姿があった





「・・・」

「あの男誰でしょうね、あれ?
もしかして・・・彼氏とか?」

「・・・」

「もしかして、怒ってます?
・・・桐生さん?もしもーし?
あーあ、全然聞こえてねぇの。」








なんとなく、貰ったライターを
取り出しそれを眺めてみる

龍の柄が描かれており
手に持った時の程良い重量感で
高価なものだということは
貰ったときに自分でも分かった








『それが女性の愛よ』

『ただのライターじゃねえか』

『そういうこと言っちゃうから
いつまで経っても気づかないのね・・・』





このただの物に、意味なんてあるのか

俺には、分からない






「桐生さん、それ
凄くいいものでしょ」




秋山の声でふと我に返る

秋山は桐生の持っているライターを
物珍しそうに観察していた


「その型はたしか・・・
数年に一度しか生産されてない
ビンテージもののジッポですよ
手に入れるの苦労したんじゃないですか?」


「・・・知らねえな」




ライターをポケットへしまうと
桐生はその場を離れ歩き始める



「あれ、なまえちゃんに
声かけてあげないんですか?」

「あぁ、いい
俺には関係ねぇんだ」





秋山は軽く首を傾げると
桐生の後を追うように
劇場前を後にした









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