「みょうじ、なんやこれは」

「スマートフォンです」

「すまあとほん・・・?」



私は冴島さんの家に来ていた

紙袋から新品のスマホを
取り出し手渡すと
冴島さんはそれを受け取り
しかめっ面で画面を睨む



「これをどうしろっちゅうんや」

「私と連絡をとってください」

「・・・」

「ちょっと、なんで
そんな顔するんですかっ」



その顔は、スマホを睨んだ時より
面倒くさそうな顔をしていた

私はむっと睨み返すと
冴島さんのスマホを奪い
流れるような手つきで
連絡先を追加していく



「なにしてんねや」

「私の連絡先を入れてるんです」

「そんなことしても
俺は連絡とらへんぞ・・・」

「そんなこと言われても
私から一方的に連絡しますから
あ、あと真島さんに桐生さん
伊達さん、秋山さんの連絡先も・・・」

「な・・・っ、そんな奴らの
連絡先なんかいらん…貸せ!」

「もう入れちゃいました」

「い、今の瞬間にか・・・!」



眉間に皺を寄せながら
慣れない手つきで
私の真似事のように
スマホの画面を触るが
まったく関係のない
画面ばかりが開き
冴島さんは不機嫌そうに
大きな溜息を吐いた


私はそんな姿を見て
ひっそりと笑いながら
その場を立ち上がる



「まるで拘束された
みたいな顔してますね」

「まるでというより
そうやないか・・・」

「逃げようったって
そうはいきませんからね!」

「・・・えぇから、さっさと帰れ」

「はーい」



そんな冴島さんを後にし
私はその日は家に帰った








_________________






ピロリン




朝方、メールの着信音が鳴り
私はそれに起こされる



「誰からだろ・・・」





大きなあくびをしながら
そのメールを開くと
私は思わずブッと吹き出した


冴島さんからのメールだったのだ




「冴島さんってば・・・
あれだけ連絡取らないとか
言いつつも、メール送ってきてる・・・」



しかし、そのメールの内容は
私には理解できない内容だった



「なにこれ・・・」




そこには写真が添付されていて
文字は一言も添えられていなかった

しかしその写真は
あまりにもブレ過ぎていて
”白いなにか”という
ことしか分からない



とりあえず私は
「これなんですか?」
メールを送ってみた


が、返事は一向に来なかった








_____________








ーピロリン



「来たっ」



冴島さんから二回目の
メールが来たのは
4時間後のことだった



そしてまたもや写真が添付されいる


「これは・・・茶色の・・・なにこれ」

今度はその茶色のなにかだったが
その距離感が近すぎて分からない


思い切って私は電話をしてみた




「なんやみょうじ」

「冴島さん・・・さっきから
一体なんなんですか・・・」

「お前、あの写真見て
なんも思わんかったんか」

「だって色々と写りが酷くて
なんなのか分からないんですもん」

「なんや、そうならそう言えや」

「いや、これなんですかって
私メール送りましたからね・・・!」

「あぁ、まぁ・・・文字が打てんくてな」

「なんで写真は添付できるのに
文字が打てないんですか・・・」


電話越しの冴島さんの声は
どこか寂しそうだった

でも、私としても写真の正体が気になる


「結局この写真は何なんですか・・・
教えてくださいよ〜」

「・・・猫や」

「・・・え?」

「せやから・・・、猫や」




ニャー、と丁度タイミング良く
私の家の傍で猫が鳴いた

一瞬の沈黙のあと
私は口がだんだんとにやけてくる



「・・・ぷ・・・くっ、ふふ」

「な、なに笑っとんじゃ」

「さ、冴島さ・・・ぷっ・・・
猫・・・猫って・・・可愛いすぎ・・・」

「そら猫やからな、かわええもんやろ」

「そうじゃなくって・・・
ぷ・・・もうだめ・・・あははははっ」



思い切りお腹を抱えて笑った

あの強面の冴島さんが
まだ不慣れなスマホを使って
必死に猫を撮っている姿を
想像すると・・・


あまりにも可愛くて仕方がないのだ


しかもその写真はブレブレだったり
距離感がおかしかったり
文字のないメールだったり



真剣に「猫や」だなんていう冴島さんが。






本当に、大好きで
愛おしくなって

あぁ、もうこの人は。
なんて思ったりしてしまった





「おい、みょうじ・・・
お前笑いすぎやないか?」

「いひひっ、だ、だって・・・
冴島さんっ・・・あははは!」

「な・・・なにがおかしいんや」


私がこんなこと思ってるなんて
向こうはひとつも感じていないのが
尚更面白おかしくって




「冴島さん!」

「あ?」


私に笑われすぎて
不機嫌そうな声が聞こえたが
私はそんなこと気にもとめなかった






「一生懸命撮ってくれた猫を
一生懸命送ってくれた冴島さんが
猫なんかよりも一番可愛くて好きですよ」





その一言を放った瞬間
通話は遮断されてしまった




「あ、切れた・・・

・・・ぷ、くくっ・・・あははははっ」




私はその後、思い出しては
笑ってしまう地獄にハマって
しまったのだった




「冴島さん、虎は虎でも
所詮はネコ科の生き物なんだなぁ・・・」








____________________



※あとがき



通話後の冴島さんからのメール


「あれ、メールきてる・・・」


画像は、ちゃんと撮れた猫
・・・ではなく


木彫りの虎の像(自作)だった。



「いや、今更男らしさを送られても・・・」



それを見てさらにツボにはまるなまえであった






prev next
back