「錦山」









親っさんが俺を呼んでる



それも、幻聴だろうか









「親っさん、俺はもう・・・
もう・・・生きていけねえよ・・・」

「お前には、強い心があるだろう」

「へへっ・・・俺にそんなもの
・・・ねえよ、親っさ・・・ん・・・」









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「・・・・・・」


目を覚ますと、どこか
見覚えのある景色だった

ここは、どこだ?





起き上がろうとすると
体のあちこちが軋むように痛み
体が言う事を聞かない





「痛ぇ・・・ッ」



そんな時、後ろから
俺の背中を誰かが支えた

体が起き上がり
隣を振り向くと
知らない女の子が
こちらを心配そうに見ていた



「大丈夫?」

「あ、あぁ・・・
お前、誰だ?」

「え、えっと・・・名前・・・名前は・・・」



おどおどとその女の子は
自分の体を見渡している







なんなんだ、この子は







「い、・・・ぐっ・・・・!」



突如襲いかかる頭痛に
頭を抑えて痛みを堪えていると
隣に居た女の子は素早く
氷水につけていたタオルを
差し出し、俺はそれを受け取った






「・・・悪ぃな」

「うぅん、いいの」

「そんで、名前は?」

「名前、あ・・・名前は・・・」

「おいおい、名前ぐらい
すぐに思い出せよ・・・」





その子はなにかを探すように
また体中を探っていると
向かいから歩いてくる人影が見えた


俺はその人影が誰かを知ると
この場所が「ヒマワリ」
だということを知った










「・・・親っさん」

「どうだ、体調は」

「あぁ、だいぶ良くなった
もしかして、ここまで俺を
運んでくれたのって・・・」




きっと、いや絶対
風間の親っさんなのだ

あの時聞こえたのは
幻聴じゃなく・・・


本当の声だった








「親っさん・・・俺・・・
俺はッ・・・どうすれば・・・!」

「錦山」

「・・・ッ・・・はい」




急に泣き崩れる錦山を目の前に
風間は女の子の元へ寄ると
一言、静かに告げた







「この子には、まだ名前がないんだ」

「・・・え、それって・・・どういう」

「この子はつい最近
神室町で俺が拾った子でな
・・・記憶喪失なんだ」

「・・・記憶、喪失・・・?」





錦山は、呆然とした

女の子は胸ポケットから
なにかを見つけては
小さな紙を取り出すと
そこにはなにも書かれていない
ただの「真っ白」な紙だった

けれど悲しい顔をするわけでもなく
女の子は、ただ微笑んだ

そんな笑顔にさらに驚きが隠せない










「この子は、今のお前と同じだ
この意味が分かるか?」

「・・・親っさん」





「すべてをなくした、と思うなら
もう一度やり直せばいい。
それにお前は、まだなにもかも
失ったわけじゃないだろう?


・・・お前には、強い心がある
だからこの子はお前と同じなんだ」






一つ一つの言葉が
降り注ぎ頭へ澄み渡る

「なにもかも」失くした、と言って
生きるのが嫌になった





でも、俺の目の前には
記憶を失い、真っ白になった
こんな小さな子供が立っている





「私、それでも怖くないよ
だってこのおじちゃんが
私を見つけてくれたから」



風間は嬉しそうに笑う

風間と一緒に悠然と微笑む
その女の子の姿に







錦山の中にある鯉は

再び、泳ぎ始める















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