「なまえ」

「あっ、冴島さん!
・・・お久しぶりです」

「おう
ほんなら行こか」

「はい!」




劇場前で待ち合わせていた私は
お気に入りのワンピースに
少し高めのヒールを履いている

歳の離れた冴島さんに
少しでも追いつけるように
私を見てもらうために

ただ、それだけだ




久しぶりに会った冴島さんは
相変わらずの表情で
顔色を一切変えずに
挨拶をして先に歩いて行ってしまう

大きな肩を揺らしながら
歩くそんな冴島さんに
私は慣れないヒールで
少し足早に後をついていった


チラッ、と気づかれないように
私は冴島さんの横顔を見る


「なんや・・・」

「いや、なんでも」

「そうか」



ただ隣を歩くだけ
ただ横顔を覗くだけ

それだけで私は・・・




「着いたで
さ、入ろか」

「はいっ!」



冴島さんに連れられた先は
チャンピオン街の
とあるBARだった



「なんや、お前緊張しとるんか」

「そ、そんなことないですよ・・・」

「久しぶりに会うたが
お前そんな無口やなかったやろ」

「・・・そうでしたっけ?」

「変な奴やのう
まあええ、これ飲んどけ」




物静かな雰囲気の店内と
久しく会話を交わしてなかったからなのか

冴島さんを目の前に
緊張してしまう私に
冴島さんはお勧めのお酒を
頼んで飲ませてくれた


そのお酒を一口飲むと
あまりの渋さと度数の強さに
驚いて目を見開く



「どうや?」

「冴島さんはいつも
こういうの飲んでるんですか?」

「ん、まぁそうやな」

「凄いですね・・・
私にはちょっとキツいですよ」

「そうか・・・でも今日は
ワシの相手してくれるんやろ?
最後まで付き合ってもらうで」

「もっ、もちろんです!」

「無理せん程度にな」




その時見せた冴島さんの
優しげな微笑む顔に
私は嬉しくて軽く微笑み返した









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