振り翳した蜘蛛の拳は
龍には到底及ぶことはなかった



「・・・ぐっ・・・くっ・・・!!」

身動きが取れない程
身体を傷めた蔭島は
桐生の強さを今一度思い知る


「・・・自分の弱さ認めて
とっととここから失せろ・・・」

「・・・・・・っ」


悔しそうに項垂れる蔭島

桐生は伊達と秋山の傍に
居るなまえの元へ寄ると
優しく声をかけた



「・・・なまえ」



なまえは嬉しそうに
弱々しく笑い桐生の手を握る


「・・・桐生さん・・・私
約束、守ったでしょ・・・」

「約束・・・?」

「・・・遥ちゃんを、守るって・・・
桐生さん、忘れたの・・・?」




”遥ちゃんは、私が守ります”


いつしか強引に交わした
なまえの約束は
しっかりと守り抜かれていた


「・・・お前は、強いな・・・なまえ」

「・・・ふふっ・・・知って、ます・・・」


桐生がなまえの手を
握り返したとき



「・・・桐生さん!危ない・・・!」


なまえは余った力で
素早く桐生の背中へ
回り盾になった



ズキューン

たったひとつの銃声が
桐生の真後ろで鳴ると


「・・・なまえ・・・?」




なまえはぐったりと
桐生の背中へともたれる

なにが起こったのか
桐生はすぐに理解できなかった


「なまえ・・・!なまえ・・・!!
しっかりしろ・・・!なまえ・・・!!」


桐生は慌ててなまえの
身体を腕の中に抱くと
お腹を撃たれ血を流す
なまえの名前を呼んだ



「蔭島・・・あいつ・・・!」

秋山と伊達が蔭島の元へと
動いたが、もう遅かった



「桐生さんよ・・・
子はな、親に似るんだよ・・・」


―バキューン



蔭島は、拳銃を自分の
頭に撃ち込むと
そのままバタリと倒れた






「・・・おい、なまえ・・・
なまえ・・・!!」

「きりゅ、う・・・さ、ん」

「お前・・・まさか死のうって
いうんじゃないだろうな・・・!」

「・・・きりゅうさ、んが・・・
無事で、良かった・・・・」

「何言ってんだ・・・
俺はそんなの許さねえぞ・・・!」

「私が、守り・・・たかったのは・・・
桐生さんが・・・守りたいと、思うもの・・・」

「・・・なまえ・・・!!」

「お願い・・・だから
もう大切なもの、無くさないで」

「・・・あぁ、・・・分かった
分かったから・・・もう喋るな・・・!」




あぁ、こんな愛しい人の胸の中
なんとか見上げた夜空は
星が煌めいていて



龍の目から溢れ落ちる雫さえ
数え切れない星の中のひとつに見えた











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