上野誠和会、蔭島は
すでになまえと共に神室町ヒルズ
屋上で桐生を待ち構えていた

なまえは手足を縛られた状態で
冷たい鉄板の上へと寝かせられた


「・・・良かったな
もうすぐで、桐生がくるぞ」

「・・・・・」


拘束されたあの日から
なまえはなんとか
隙を見計らっては
逃げようとしていた

しかし反抗する度に
体の一部に打撲の青い痣が
できるほどの暴行を受け
なまえの意識は既に
朦朧としていた



そんな途切れとぎれの意識の中
なまえはただひたすら願っていた



遥ちゃんは無事だろうか
桐生さんは無事だろうか

自分のことをいつでも
後回しにして考える癖が
ここで不運に変えてしまった事

けれどそれで誰かを助けられたなら
なまえにとってなによりの事だった

もしここで自分が死んだとしても・・・






蔭島の電話が鳴ると
蔭島は心底不気味な
笑みを浮かべる


「・・・やっときたか」

「・・・・!」


自分の立たされている
境地なんて気に止めることなく
桐生の身を確認できたことに
一安心するなまえ





体を壁や床に叩きつけるような
鈍い音がどんどん近づいてきている

唸り声をあげて争うその声は
明らかに、桐生の声だった



「・・・なまえ!!」




私を、呼ぶ声が聞こえる
弱々しく顔を上げるとそこには
わずかに息を切らしながらも
その瞳は力強く、衰えを感じない
龍の姿が目の前にあった

なまえに安心する間も与えず
拍手をしながら蔭島は躍り出た



「桐生一馬さん、お待ちしてましたよ」

「・・・お前が・・・蔭島」

「我が上野誠和会の
熱い歓迎はいかがでしたか」

「口ほどでもねえな」

「さすが堂島の龍
上野誠和会を壊滅に
導いただけはある」


顎に手を当てて小さく笑う蔭島

桐生は顔を顰めると
蔭島に攻め寄ろうとする

しかし蔭島は懐から拳銃を
素早く取り出しなまえへと
拳銃を向けた



「・・・極道なら、正々堂々戦うってのが
仁義じゃねえのか、蔭島
それともお前には、そんな力がねえのか」


蔭島は不敵に笑う


「ふふっ・・・私がしていることは
卑怯だとでもいうのか・・・?」

「自分でもよく分かってるじゃねえか」

「・・・甘いんだよ、桐生さんよ

お前は一年前と同じように此処へ来た
葛城の親父と、同じ手口でな」

「・・・それがどうした」

「ふふ・・・はははははっ!
・・・私はね、桐生さん・・・
ずっとこの時を待っていたんだ」

「・・・なに?」

「あの時のお前の目的は
冴島靖子、冴島大河の
奪還、だった・・・

だがお前は何を失くした?
一人残らず仲間を助け出せたか?」


桐生は一年前
この場所であったことを思い出す

冴島靖子は、死んだ
生きて帰ることができなかったのだ


「あんな親父でもな、俺にとっては
代わりのない唯一の親父だった

お前は、私の生きがいを奪った・・・」

「・・・」

「お前が大切に守ってきた
澤村遥を人質にする計画は
失敗に終わってしまったが・・・
この女でも代用として充分
役に立ったみたいだ

暴行を受けても尚・・・桐生
お前の名前をずっと
必死こいて呼んでいたよ」


「・・・蔭島・・・てめえ・・・」

「どちらにせよ、澤村遥も
この女も、端からお前の為に
殺す予定だったんだ・・・桐生一馬」

「おい!!じゃあなぜ俺を
最初から殺そうとしねえ・・・!!」

「・・・私の目的は
桐生一馬の殺害じゃない
お前の生きがいを奪うことだ

だからこいつはここでくたばるんだ
あの時と同じようにな・・・」


蔭島は拳銃の引き金に指をかける




「・・・ぐっ・・・」

「き、りゅう・・さん・・・」

なまえは泣き崩れた顔で
弱々しく桐生を見上げる


「・・・桐生さんが・・・
助かるなら・・・私、・・・」

「おい、なまえ
お前何馬鹿なこと言って・・・」

「・・・ごめんな、さい・・・」

「なまえ・・・・!」

バキューン―――・・・


桐生が名前を呼び
なまえの元へと駆け出すと同時に
銃声が空中で鳴り響き
その銃声に目を瞑り膝をついた


銃声の直後に目を見開くと
蔭島が持っていた拳銃は
地面へと落ち、手を痺れさせ
苦しんでいる蔭島が居た

気がつくとなまえが居ない




「・・・甘いんだよ、お前も」

桐生は振り向くとそこには
銃を構えた伊達と
なまえを奪い返した秋山が居た


「ふぅ、間に合って良かった・・・
桐生さん、無事ですか」

「秋山・・・伊達さん・・・!!」



痺れが治まり状況を把握した
蔭島は厳つい形相で
三人を睨みつけた


「お前ら・・・!」

「一年前と同じ結末にさせるほど
こっちも頭悪くないんでね・・・
それともこんな結末予測してなかった?
上野誠和会の策略師さんよ」

「・・・くっ・・・」

「なまえはなんとか
・・・大丈夫そうだな」

「桐生さん、まだあいつを
殴れる体力、残ってますか?」

「・・・あぁ、余りに余ってる・・・」

「お!それなら良かった」

「・・・行ってこい、桐生」


秋山と伊達は桐生に笑いかける
桐生はゆっくりと立ち上がった








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