― 福岡、永洲街


鈴木太一と偽名を名乗る桐生は
タクシードライバーの
仕事を終え、洗車をしていた

そこに一本の電話が鳴り響く


着信元は非通知だった
桐生は周囲に警戒しながら
ゆっくりと着信をとる



「・・・誰だ」

「みょうじなまえを、知っているな」

「・・・!なまえがどうした」

「私は今、みょうじなまえの
身柄を拘束している」

「・・・それを信じられる証拠は?」

「まぁ、信じるも信じないも
それはあなたの勝手だが
この女の命はあなたに
かかっているんですよ?」

「なにが目的だ、今何処に居る」

「・・・明日午後10時に
神室町ヒルズの最上階で待つ
それまでに来なければ
この女は射殺する」

「・・・!」


桐生はこの時に感づいてしまう
一年前、同じようなことがあった事を


「・・・俺ひとりで、行けばいいんだろう」

「おや、ご察しの良いようで
そこまで分かっているのなら
私達がどんな集団なのかも
ご存知なんでしょう」

「上野・・・誠和会」

「そう、あなたが一年前
単身で壊滅させた上野誠和会」

「俺への復讐ってことか」

「・・・では、明日待っていますよ
桐生一馬さん」



電話が切れると桐生は
力を入れ拳を握り締める



― 確かに一年前のあの日
壊滅させたはずの上野誠和会


あの日も、葛城との電話で
神室町ヒルズの屋上へと
単身で乗り込むように指示された

今回もあの時と全く同じ手口だ



そしてなまえの身柄の拘束

なぜ大阪に居るはずのなまえを
わざわざ捕まえる必要があったのか


しかし考える暇を与える間もなく
またもや着信が鳴り響く

伊達さんだった
桐生は急いで着信をとった



「桐生!お前、無事か!?」

「俺は大丈夫だ」

「ついさっき神室町で
大きな騒ぎがあってな
駆けつけると秋山が倒れていた」

「・・・何・・・!?
秋山は無事なのか!」

「あぁ、心配するな
かなりの人数と争って
体力が消耗していただけだからな

だがな・・・あっ・・・おい!」


「・・・桐生さん」


電話を奪い取るような音が
聞こえたかと思うと
すぐに聞こえてきたのは
弱りきった秋山の声だった



「秋山、大丈夫か」

「俺はこの通り、元気ですよ
それより・・・こいつらの正体が・・・」

「上野誠和会だな」

「! どうしてそれを・・・?!
まさかそっちにも手下が・・・!?」

「その頭らしき奴から
さっき電話があった」

「!!
・・・でも、丁度良かった
僕もその手下から情報を得たんです
そいつはきっと”蔭島”という名前です」

「蔭島・・・」

「抗争の場になかなか顔を出さない
どちらかと言えば、策略師・・・
僕のところにもそいつは来ませんでした

そして最初に蔭島は
遥ちゃんを狙っていた」

「・・・何、遥を・・・!?」

「大丈夫、遥ちゃんは
一緒に居たなまえちゃんの
手によってなんとか
僕の所まで逃げてきました」

「・・・遥の代わりになまえが
拘束された・・・」

「蔭島、なにか言ってたんですか?」

「・・・一年前の葛城の要求と同じだ
明日午後10時に、俺一人で、
神室町ヒルズ屋上に来い、と」

「さすが策略師といったところですか・・・」

「俺は今から神室町に向かう
すまないが、もう少しだけ
遥のこと・・・任せてもいいか」

「・・・分かりました
僕の店だとまた誰かしら
襲撃してくるかもしれない
ニューセレナで、待ってますよ」

「あぁ」



そうして桐生は
すぐさま東京へと向かったのだった








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