両手に大量の酒が入った
ビニール袋をぶら下げる秋山は
いつも通り、ホームレス達の元へと
ゆっくりとした足取りで向かっていた


「あー、曇ってきちゃったな〜
なんだか不吉な予兆・・・
いや、気にしたら負けか

・・・ん?なんだ・・・?」


天下一通りの入口に
人だかりができている

様子を見に行こうとするが
その人だかりが邪魔で前へと進めない


「おいおい、なんなの一体・・・?」




「やべぇ、あれ本物だよ!」

「ほんとだ!テレビに出てる子じゃん!」

「あ〜、アイドル志望の?」




「・・・アイドル、ねぇ

そういや遥ちゃんも・・・
いや、あの子は今頃大阪だ
こんなところに居るはず・・・」


秋山はなんの集まりだかを知ると
はいはい、と向きを変えて
その場を去ろうとした時だった


「そうだ!遥!澤村遥だよ!」



「え?・・・遥ちゃん!?」



素早く振り向くと
秋山は大きな声で名前を呼んだ




「す、すみません・・・
ちょっと、通してくださいっ・・・!」


人ごみをかき分けて
秋山の目の前に現れたのは
紛れもない、遥だった




「は、遥ちゃん・・・なんでここに!」

「秋山さん・・・!!」



遥は秋山の姿を見つけると
安心したのか瞳いっぱいに涙を浮かべる


「あ、秋山・・・さんっ・・・!
助けて、くださいっ・・・!」


その場で泣き崩れるように
膝をついて懇願するが
秋山は状況が飲み込めず
慌てて酒の入った袋を置くと
遥の肩を正面から優しく支えた

周りの人は不穏な顔で
秋山の顔をじっと見つめている


「今すぐにでも話を聞きたいけど
ここじゃゆっくり話ができない・・・
俺の店に場所を変えよう
ね、遥ちゃん?」

「・・・は、い・・・」


周りの目を掻い潜るように
二人はスカイファイナンスへ
逃げ込んだ




―――――――――――――――




「社長、なにか飲み物買ってきましょうか」

「あぁ、頼むよ花ちゃん」

「・・・」


ソファへ座り
だんまりと俯く遥を
心配そうに見つめ
秋山は問いかけた


「ところで、さっき助けてって
言ってたけど・・・なにかあった?」

「・・・なまえさんが・・・」

「ん?なまえちゃん?
なまえがどうかしたの?」

「・・・大阪で二人で駅に向かってる途中
知らない男の人達が後を追ってきたんです
私、その人達に狙われてて・・・
なまえさんが気を引いてくれて
その隙に私、電車で逃げてきたんです・・・」

「・・・知らない、男・・・ね
なまえちゃん大丈夫だろうか」

「・・・私を逃がしてくれたから
今頃なまえさん・・・!」


遥はその場面を思い出すと
辛そうに顔をしかめた


「元々は遥ちゃんを
捕まえようとしてたんだ
関係のないなまえちゃんを
捕まえてまでどうこうしよう
とは思ってないだろう」

「でもなんで・・・私が・・・?」

「・・・人質にする為、とかね」

「人、質・・・」

「大丈夫、遥ちゃん
いまは俺がついてるよ

でもなまえちゃんの
身の安全が気になるね・・・」


自分のせいで犠牲になった
なまえの身を心配する遥


「・・・そういえば、
花ちゃん遅いね」


怯えるように息を飲む遥を
秋山は落ち着かせるように
にっこりと微笑みかけ
話を逸らした時だった

階段を急いで駆け上がってくる
足音が聞こえてきた



「社長!!」



花ちゃんは息を上げて
勢いよくドアを開ける

その手に買ってきた
飲み物はない



「お、花ちゃん
遅かったじゃないの〜
遥ちゃんも俺も喉カラカラで・・・
って・・・なんにも買ってないじゃないの」

「そ、それどころじゃないですよ!!」

「いや、俺らの喉もそれどころじゃ・・・」

「この近辺で遥ちゃんのこと
嗅ぎつけた男がうろついてますよ!」

「!!・・・なんだって?」

「あ、秋山さん・・・」


心配そうに見つめる遥に
秋山は頷いて立ち上がる


「俺が行こう
花ちゃん、遥ちゃん頼んだよ」

「え!?ちょ、ちょっと社長!?」


秋山は急いで外へと駆け出した









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