あれから半年程経った


あのバッティングセンターに
寄ったら、あの子が
いるんじゃないかと思い
気まずくて近寄らなかった


「どこまで気が小さいの、俺…」



あんなに心の底から楽しくて
喜び合うのなんて、
いつぶりだっただろう

ほんと、優しい子だったな


草野球をしているグラウンドを
眺めながら歩いていると



カキーン



と、あの時を思い出すかのように
なんとも心地のいい音が響き
空を見上げると丸く黒い影が
こちらへと迫っていた




「え?!場外?!」



思わずそのままボールを
キャッチしてしまい
あまりの痛さに悶絶する


「っくう〜…痛てぇ〜…!!」

「大丈夫ですかー?!」


遠くの方からそのチームの
1人らしき人影が走ってくる

女性の声だったので
品田はすぐさま平然を装った


「大丈夫っす!
俺が勝手に取っただ…け…」



目の前へと走って
やってきたのは

あのときの子、なまえだった



「品田さん…?」

「…ひ、久しぶり、だね!」

「……」

「いやぁ〜!ビックリしたよ!
まさか場外に飛ぶまで
打てるようになったなんて!」


なかなかの気まずい雰囲気に
品田は声が裏返りつつ
あたふたしながら話すが
なまえの顔は歪み
そのままだんまりだった


「なまえちゃん、
……怒って、る?」


そんななまえの表情に
品田は片足を小さく一歩前へ
踏み出そうとすると

その足よりも先になまえが
こちらへと素早く足を踏み出し
品田の胸元へと抱きついた



「?!…」

その抱きつかれた反動と
驚きで後ろへと後退りそうに
なるが、なんとか食い止める


こ、これは……えっと…
抱き締め返すべき?!
抱き締め返さないべき?!
というかどういう状況……?!

頭の中は混乱状態だ



「品田さんは…」



結局俺は抱きしめ返せないまま
胸に顔を埋めたなまえが
少しずつ口を開いていく


「品田さんは私の事嫌いですか?」


そんな小さく震えた一言に
胸が張り裂けそうになる


「そんなことないよ…
どっちかっつーと、
むしろ俺が嫌われる方だ」


苦笑しながら、なまえの
頭をぽん、と撫でやると
ゆっくりと顔がこちらを見上げた


「わざと私に会わないように
してたんですか……?」


その見上げた大きな瞳は
涙で溢れそうになっていた


この子を避けていたせいで
こんなに辛い思いをさせてたなんて、

奥底から込み上げる気持ちに
堪らなくなり、俺は思わず
なまえを力いっぱい抱き締め返す


「私、あれから毎日ずっと
あの場所で待ってたんですから…」

「ま、毎日!?
本当、ごめん…」

「だからとうとう場外まで
打てるようになっちゃったんですよ…
ほんと、どうしてくれるんですか…」

「うん、それは予想外過ぎ」

「……」

「……」


短い沈黙が続いた後
二人は抱き締めあったまま
顔を見合わせる


「……ぷっ…

ははははっ!」


まったく同時のタイミングで
お互いに吹き出して笑い合ってると
遠くから数人がこちらを見て
なにか叫んでいた


「おーい、なまえ!!
なにイチャイチャしてんの!
早く練習するよー!!」

「あれって彼氏ー?!」

「なんか、身長高くない?!」

「なまえの彼氏だ〜!」


グラウンドの方から
ヒューヒュー、と二人を
冷やかす声が聞こえてくる

二人は慌てて離れると
まあ顔を見合わせて笑い合う


「ほら、みんなが待ってる
行っておいで」

「私も、待ってますから
いつもあの場所にいますから
だから……」

「うん、会いに行くよ」

「……!はい!」


満面の笑みで返すなまえに
品田も同じように笑みを返す


こちらへと手を振りながら
走りグラウンドへと
帰っていくなまえを見て
俺はふと、気がついた



「どうせなら、連絡先
聞けばよかったじゃん…
なまえちゃん、今日の夜
空いてたかもしんないのに、
あー!くそ〜…っ!」


相手に好意があると分かると
下心丸出しな品田なのであった






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「俺も草野球はじめっかな…」

「品田さん、プロ入り
目指せばいいのに」

「あ、あははっ!、
そ、そんなの、無理無理!」

「なに慌ててるんですか?」

「別に、なにも?!」


身バレしたくないらしい品田



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