「まずは持ち方からだけど…
持ち手はこんな感じで
スイングさせる時は…」

「あっ、えっと……こうですか?」


この子はなまえちゃんという子で
仕事のストレス発散に毎週
この場所へと足を運んでいる

けれど、玉が当たらず打てずで
むしろストレスは溜まる一方だったらしい


そんな時俺を見て思わず
声をかけたそうだ



「あー、えっと…なんていうか、
軸になる方の腕をもっとこう…さ
ん〜…言葉で説明すんの難しいな…
ごめん、ちょっと触るね」

「は、はい」

そう言って品田はなまえの手を
掴んでバットの握る位置を変えさせる

するとどうだろう
心臓が一瞬ドキっと、した


(うっわ、女の子の手って…
こんなちっさいんだな…
しかもスベスベだし…って、
俺なんかキモくない…?)


最近女性と触れ合う日々から
遠ざかっていたからか
品田の頭の中には疾しい
気持ちがどんどん溢れてくる

(だめだ、集中集中…!)


「そんで、そのまま構えたら
思いっきりスイング!」

「……っ!」

「ん〜…、ちょっと良くなったけど
まずはじめの位置は
もう少し低めに構えて…」


疾しい気持ちを押さえつけながら
なまえの背後から腕を伸ばし
両腕を掴んで的確に打ち位置を伝える

そんな触れ合いさえも当たり前のように
なるまで二人の特訓は続いた




____________________



そして




カキーン!
その音が鳴り響いたのは
教え始めてから2時間後だった



「品田さんっ!やりました!」

「やったぁー!!!!!」


二人は大盛り上がりで
ピョンピョンと跳ね上がり
なまえが品田の近くへ寄ると
お互いに手を繋ぎ、また跳ね上がる


「やっと打てました〜!!!
品田さんのおかげです〜!!」

「俺だけじゃないよー!!
なまえちゃんだって頑張ったから…」


ハッ……、と我に返り
繋ぎ合わせた手を見て
品田は冷や汗を流す



(いい歳こいたおっさんが
こんな若い女の子相手に
体に触れて打ち方教えて
喜んで手を繋いでジャンプしてる…

いや、これマジでキモいよな…?!)


品田は慌てて繋いでいた手を離すと
少し距離を置くようになまえから離れる

急に離れた品田に対して
なまえはきょとん、と
頭の上に疑問符を浮かべた


「どうしたんですか?品田さん?」


首を傾げながら顔を覗き込むなまえに
品田は何ともいたたまれない気持ちになる



『「鬱陶しい」』


そんないつかの言葉が
またグサリと胸に突き刺さる



「あ、それじゃあ…さ!
もう打てるようになったし!
俺、もう帰るわ!」


こんなことにこんな時間まで
こんなおっさんに付き合ってくれた
こんなに優しい彼女に

またあの時のような
胸へと刺さる一言を放たれると
もう心がもたないと思った


「品田さんっ!」

「ほんと、良かったね!
それじゃ!」


俺は、笑顔を向けながら
逃げるようにその場を離れた




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